研究課題/領域番号 |
18K03405
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
只木 孝太郎 中部大学, 工学部, 教授 (70407881)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 典型性原理 / 量子情報理論 / アルゴリズム的ランダムネス / 量子力学 / 多世界解釈 / 確率解釈 / ベルの不等式 / アルゴリズム的情報理論 |
研究実績の概要 |
量子力学では確率概念が本質的な役割を果たす。この確率概念はボルン則として量子力学に導入される。しかしながら、量子力学を記述する今日の数学において確率論とは測度論のことであり、ボルン則が基づく“確率概念”に関して、操作的な特徴付けは見当たらない。これまでの研究で私は、アルゴリズム的ランダムネスの概念装置に基づいて、“典型性原理”と呼ぶボルン則を操作主義的に明確化した代替規則を導入した。 本研究は、典型性原理に基づく我々の枠組が、量子力学の実際の問題の取扱いとその解析において適切に機能することの実証を目的として、典型性原理を、量子暗号をはじめとする量子情報理論の主要な技術に適用し、典型性原理に基づいてそれら技術の精密化を行い、量子情報理論の再構成を行うものである。 本研究では、2018年4月の開始以来、「交付申請書」に記載した「研究実施計画」の通りに研究を進め、2020年度までに、典型性原理に基づいて、量子テレポーテーション、スーパーデンスコーディング、量子操作、量子誤り訂正の一般論、主要な量子誤り訂正符号のクラスであるCSS符号及びその一般化であるスタビライザー符号について、精密化・再構成を行い、これら全てに成功した。 2021年度の研究では、以上の成果に立脚し、量子情報源符号化、量子通信路上での古典情報の通信路符号化、量子通信路上での量子情報の通信路符号化などに対し、次々と典型性原理を適用し、それらの再構成と精密化を行った。量子暗号BB84の安全性証明は、量子情報理論の全般にわたる種々の結果を総動員して行われるが、本研究の最後では、これまでに得られた成果に立脚し、典型性原理に基づいてこの安全性証明を再構成し、その精密化を行った。 以上のように、本研究では、量子情報理論を題材にして典型性原理によりその精密化・再構成を行うことにより、典型性原理の有効性と妥当性を追認し実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、典型性原理の有効性と妥当性を確証するために、典型性原理を量子情報理論の主要な技術に適用し、その精密化を行い、量子情報理論の再構成を行うことであるが、本研究では、その開始以来、交付申請書に記載した「研究実施計画」の通りに研究を進め、量子テレポーテーション、スーパーデンスコーディング、量子操作、量子誤り訂正の一般論、主要な量子誤り訂正符号であるCSS符号及びその一般化であるスタビライザー符号、量子情報源符号化、量子通信路上での通信路符号化などに対し、次々と典型性原理を適用し、それらの再構成と精密化を行い、全てにおいて成功した。そしてこれら成果に立脚し、典型性原理に基づいて量子暗号BB84の安全性証明の再構成と精密化を行い、これにも成功した。このようにして、2021年度までの研究で、交付申請書に記載した「研究の目的」を達成した。 更に本研究では想定外の成果として、ベルの不等式対量子力学論争の典型性原理からの導出・精密化を行いこれに成功した。そして、この論争を完全な量子相関を持つ設定に拡張したGHZ実験をめぐる論争についても、典型性原理からの導出・精密化を行い、これにも成功した。 このように本研究では、その研究内容自体は当初の予想以上にスムーズに進行した。 一方において、研究というものは論文としてまとめてこそ完成するものである。2021年度は、これら既に達成した研究成果を複数編の論文としてまとめ、然るべき国際論文誌に投稿する計画であった。しかしながら、2020年来のコロナ禍の影響などにより、私が勤務する中部大学において研究以外の業務が極めて多忙となり、2021年度中に全ての論文が完成しなかった。 以上の事情を勘案し、本研究課題の進捗状況を総合的に判断すれば、論文執筆は一部未完ながら、少なくとも「研究の目的」は既に達成しているので、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果をまとめたものとして、完成させなければならない論文が複数編あり、2022年度は、それら論文を完成させ、然るべき国際論文誌に投稿することに注力する。 同時に、2022年度は、本研究の成果を国際会議および国内会議で発表し、本研究の成果の国内外への周知を行う。 2022年度は、以上の方法を通じて、本研究成果の、特に、国際的な周知を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初は国際会議への参加等を通じて研究を推進する予定であった。しかし実際には、2021年度までの研究で、国際会議への参加無しに本研究の目的の全てを達成してしまった。更に、ベルの不等式対量子力学論争に関する想定外の研究成果も得た。研究活動中、予期せぬ事態として、2020年3月以降、新型コロナウィルス感染症のため、出張予定であった国際会議・国内学会が、こぞって中止またはオンラインでの開催となってしまい、旅費の支出が皆無となった。上述した、国際会議への参加なしでの本研究成果の達成は、このコロナ禍のために必要に迫られた事による、止むに止まれぬ必然であった。コロナ禍という困難を排して、本研究を推進した。以上が次年度使用額が生じた理由である。 (使用計画)次年度使用額は、本研究成果を大々的に宣伝し、全世界に周知させるために使用する。 本研究の成果をまとめたものとして、完成させなければならない論文が複数編存在する。2022年度は、それら論文を完成させ、然るべき国際論文誌に投稿する計画である。次年度使用額の一部は、そのための投稿料として使用する。同時に、2022年度は、本研究の成果を国際会議および国内会議で発表し、国内外で本研究成果の周知を行う計画である。次年度使用額はそのためにも使用する。また、論文作成や学術会議への参加・発表のために電子機器類を購入する。以上の目的に次年度使用額は使用する。
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