研究実績の概要 |
クラスター殻模型アプローチを用いて原子核内における核子相関のメカニズムを研究した。陽子-中性子対にはアイソスピンがT=1とT=0のチャンネルがあり、反対称性からT=1は0+、T=0は1+のスピン-パリティを持つ。一般に全体の核子数が偶数の原子核は基底状態が0+となることが普通であるが、陽子と中性子が奇数でかつ同じ数である核においては1+が基底状態となる核がある。これはT=0の相関が強くなるためであり、その条件を解明するため閉殻構造のコア核に陽子と中性子を付加し、フッ素(F)18、スカンジウム(Sc)42、銅(Cu)58についてクラスター殻模型計算を行なった。実験で得られている18F, 42Sc, 58Cuの基底状態はそれぞれ1+, 0+, 1+であり、18F, 58CuでT=0チャンネル(1+)が強くなっていることが期待される。 核子相関を精密に取り扱うためには相互作用にテンソル力を用いること重要である。相互作用を中心力のみにして計算した場合、コア核の変化による寄与の差があるにもかかわらずすべてT=0チャンネルが強い寄与を示し、1+が基底状態となった。これは、中心力のみではT=0チャンネルの相関を作り出すメカニズムが強く出過ぎるためであると考えられる。 そこで相互作用に現実的核力のテンソル部分を適用し、中心力に繰り込まれていたテンソルの寄与を強度パラメータの形で削減した計算を行うと42ScでのT=1チャンネルとの準位の逆転が再現できた。中心力のみの場合との大きな違いは、陽子-中性子対において軌道角運動量が2だけ違う軌道の組の寄与である。テンソル力はこの組について強い引力を示す。18F, 58Cuではこの組が十分に効くような価核子の軌道となっているのに対し、42Scでは軌道の間隔が大きいため陽子-中性子対はそのような組の寄与が弱いことを解明した。
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