研究課題/領域番号 |
18K03707
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
野沢 貴也 国立天文台, 理論研究部, 特任助教 (90435975)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダスト / 超新星 / プレソーラー粒子 / 星間雲 / 原始太陽系星雲 |
研究実績の概要 |
(超新星放出ガス中でのSiC粒子の形成) 隕石中には、その同位体組成から超新星起源と考えられるプレソーラーSiC粒子が多数発見されている。しかしこれまでの理論研究において、超新星放出ガス中でSiCダスト粒子の形成を実現した計算例はない。そこで本研究では、SiC分子形成の非平衡計算とSiC分子からSiCダストが凝縮するという経路に則してダスト形成計算を実行し、隕石中で発見される1μmより大きいSiC粒子が形成され得るかどうかを調べた。計算の結果、ガスが数千Kまで冷えるとSiC分子が効率的に形成し、それを原材料として有意な量のSiCダストが形成できることがわかった。しかし、超新星放出ガスの典型的な物理環境を考える限りでは、0.1μmより大きいSiC粒子の形成は達成できなかった。それゆえ、SiC粒子は非常に密度の高いガス塊などの極めて特殊な環境で形成されたと考えられる。
(星間雲中でのダスト凝縮の可能性) 近年の星間ダスト進化モデルは、銀河中のダスト総量を説明するために「分子雲中での重元素ガス降着によるダスト成長が不可欠」と結論づけられている。しかし、ダスト成長の詳細な物理化学過程は全くわかっておらず、また低温の分子雲中ではダスト表面に氷マントルが形成され、重元素降着によるダスト成長は困難であると指摘されている。そこで本研究では、比較的密度の高い分子雲に超新星衝撃波が衝突し、高温に加熱されたガスが冷却・収縮する過程でガス相から直接ダストが凝縮する可能性を考えた。簡単な解析の結果、そのような環境ではガスの冷却速度がダストの成長速度よりも早いため、ダストの凝縮はほぼ不可能であることがわかった。しかし本解析においては、ガスの放射冷却の効率が非常に高いものと想定しているため、今後はガスの冷却をより現実的に評価して星間雲中でのダスト凝縮の可能性を追究する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究の初年度に、本研究の中枢である「分子形成」「安定核の凝縮」「ガス降着による核成長」「ダスト同士の合体成長」を整合的に取り扱う“総合的な”ダスト形成モデルを開発することができた。本ダスト形成計算コードの完成により、星からの放出ガス中から分子雲・原始太陽系星雲までに及ぶ幅広い物理環境下でのダスト形成計算が可能となり、宇宙におけるダスト形成過程を統一的に理解することができる。特に当該年度においては、これまでほとんど調べられていなかったSiC粒子の形成について本ダスト形成モデルを用いて取り組んでおり、超新星でのSiC粒子の形成を世界で初めて実現することができた。本研究は、星間ダストと隕石中に含まれるプレソーラー粒子を橋渡しする分野横断的な研究と位置付けられ、現在論文として本成果を執筆中である。 その一方で、星間雲中でのダスト凝縮の研究にも着手した。ダスト凝縮過程はガスの冷却速度に大きく依存するが、一般に使用されているガスの冷却関数を適用する限りでは、ガス冷却のタイムスケールがダストの成長のタイムスケールより短くなりダストは凝縮できないことがわかった。これに加えて本研究では、冷却するガス雲でのダスト凝縮の初期条件を整理するため、超新星の衝撃波により分子雲が高温に加熱されたときに分子雲中のダストがどれほど破壊されるかを計算した。ガスプラズマの冷却とダスト破壊を整合的に取り扱った計算の結果、ガスが冷えてしまう前に3μm以下の初期半径を持つダストはすべてスパッタリングによって破壊されることがわかった。このように、星間雲でのダスト凝縮の可能性についてもその理解は着々と進んでおり、ガスの冷却・加熱過程を一つ一つ調べて星間雲中でダストが凝縮され得る条件を最終的に導出する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
星間雲中でのダスト凝縮の可能性として、本研究では密度の高い分子雲に超新星衝撃波が衝突し、高温に加熱されたガスが冷却する過程でガス相からダストが凝縮するシナリオを考えている。上述したように、これまではガスの放射冷却は非常に効率的に起こると仮定していたが、圧縮された高密度ガスは光学的に厚くなり、放射によるガス冷却が鈍ると考えられる。また超新星残骸内から照射される宇宙線やX線は分子雲ガスの加熱源として働くため、ガスの冷却速度はさらに遅くなる。それゆえこれらのガスの冷却・加熱過程を詳細に調べ、得られたガスの温度進化に基づいてダストが凝縮し得る環境を制限する。もし星間雲内でダストの凝縮が可能であることが立証できれば、宇宙におけるダスト供給源の描像を大きく塗り替えることになり、星間ダストの起源・進化の理解に革新的な進展をもたらす。
一方これまでの本研究により、ダストの前駆物質である分子の形成率・形成種がダスト形成過程に重要な役割を果たすことがわかった。しかし数千Kの比較的高温でのガス分子の形成率はほとんどわかっておらず、室温での実験結果を単に高温まで外挿して見積もられているのが現状である。本研究では量子化学計算に基づいて、主に炭素や鉄を含む分子の形成効率を幅広い温度範囲に渡って調べ上げ、ダスト形成計算を行う基盤を構築する。 また、高温プラズマ中でのスパッタリングによるダストの破壊過程の研究も行う。従来の研究で適用されていたスパッタリング効率は、その表面が理想化された結晶バルク物質の実験データに基づいており、数μm以下の有限サイズのダストには必ずしも適用できない。そこで本研究では、最新のスパッタリングの数値シミュレーションを駆使し、スパッタリングにおける有限サイズの効果、ダストの表面構造や結晶構造、空隙の影響を調べ上げる。そして、より現実的な星間ダストの破壊効率を導出することを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2019年3月に、当該助成金の一部を使用して国内研究会「銀河の化学進化とダスト形成」を札幌市にて開催した。しかし、当該助成金から旅費の補助をする予定だった参加者が急遽キャンセルしたため、その分を繰り越さざるを得なくなった。
(使用計画)翌年度分に繰り越した助成金は、当該年度末に故障した計算機の修理費および研究成果発表のための旅費に充てる。
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