研究課題/領域番号 |
18K03707
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
野沢 貴也 国立天文台, 科学研究部, 特任研究員 (90435975)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ダスト / 超新星 / 衝撃波 / スパッタリング |
研究実績の概要 |
「総合的なダスト形成モデルの構築」に関して、原始惑星系円盤におけるダスト凝縮を調べるために当該研究で構築したダスト形成計算コードの改良を進めた。特に、高密度の環境では計算時間が極端に長くなること、また原子サイズから数センチサイズの固体ダストまで8桁以上のレンジを扱う必要があることから、ダスト形成計算の簡略化と迅速化に向けて取り組んだ。
その一方で、「宇宙固体微粒子の起源」を探るためにダストの破壊の観点からも検討を進めた。ダストの主な破壊過程は高温プラズマ中でのスパッタリングであり、ダストの破壊効率は入射イオン一粒子あたりに固体から放出される原子の平均個数として定義されるスパッタリング収率から導出される。しかし従来の実験で使用されたターゲット物質は、滑らかな表面と空隙のない一様結晶構造をもつマクロ固体物質であるため、この実験結果は複雑な表面・内部・結晶構造をもつ有限サイズのダストには直接適用できないと考えられる。そこで本研究では、最新の3次元スパッタリング計算コードを用いて、ダストの有限サイズの効果、また空隙や表面構造、結晶構造の影響を明らかにし、高温プラズマ中におけるサブミクロンサイズのダストの現実的な破壊効率を導出することを目指す。
本年度では非晶質炭素ダストに焦点を当て、スパッタリング収率の物質密度依存性を調べた。その結果、物質密度が低いほどスパッタリング収率は減少し、通常使用される炭素密度2.2 g/cm3と比べて、1.15 g/cm3では20 %以上も収率が減少することがわかった。この結果は、物質密度が低いほど「入射イオンと炭素原子」および「リコイルされた炭素原子同士」の前面衝突が起こりにくく、固体物質表面へと跳ね返る原子の個数が減少することに起因すると考えられる。本解釈を検証するため、モンテカルロ法に基づいた計算コードを新たに開発し現在比較計算を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該研究の初年度に、本研究の中核である「分子形成」「安定核の凝縮」「ガス降着による核成長」「ダスト同士の合体成長」を整合的に取り扱う“総合的な”ダスト形成計算コードを開発した。そして、この“総合的”ダスト形成計算コードを用い、「超新星放出ガス中でのSiCダスト粒子の形成」および「高速の衝撃波により圧縮された分子雲中でのダストの凝縮」を調べた。これらの研究により、高温下でのガス相からの固体安定核の凝縮と核成長に加え、低温下でのダスト同士の合体成長も最終的なダストのサイズに影響を及ぼすことがわかった。また、SiC分子の形成を考慮するとSiCダスト粒子の形成がより効率的に実現されること、希薄な分子雲中でも0.01ミクロン程度のダストがガス相から凝縮する可能性があることなど、従来の研究では明らかにされていない新しい結果もそれぞれの研究において得られた。しかしながら、これらの研究成果の論文化までには至っておらず、それゆえ当該研究は当初の予定よりも遅れている。
一方本年度は、「原始惑星系円盤におけるダスト凝縮」を調べる第一段階として、隕石中に発見されている高温凝縮物のCAIs(Calcium-Aluminium-rich inclusions)の形成過程の解明を目標とした。ただし、星からの放出ガスと比べて原始惑星系円盤の密度は5桁以上も高く、ダスト形成の基本物理過程である原子ガスとの衝突が頻繁に起こるため、初年度に構築したダスト形成計算コードでは安定核の生成と核成長を現実的な時間で対応することができない。そこで、高密度環境下でのダスト形成を迅速にかつできるだけ正確にモデル化し、原子のオングストロームサイズから数センチまでの8桁以上におよぶダスト成長を扱うことができるようにダスト形成計算コードの改良を進めているが、未だ完遂できていないためこの点からも本研究は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、現在進行中の「原始惑星系円盤でのダスト凝縮の可能性」を探る研究に加え、超新星の3次元流体計算に基づいた分子・ダスト形成の計算、および逆行衝撃波によるダスト破壊の計算を進める。
2010年代のALMA電波望遠鏡による高空間分解能の観測から、超新星SN 1987Aの放出ガス中での分子・ダストの形成量とその3次元空間分布が明らかにされている。また近年稼働が予定されているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による可視赤外線の観測からも、近傍の超新星爆発・超新星残骸内のCO分子やダスト粒子の空間分布について知見が与えられると期待される。しかし超新星放出ガス中での分子・ダスト形成の理論計算は、これまで球対称の流体計算結果に対してしか行われていないため、観測結果との比較から分子・ダストの空間分布について議論することができない。そこで、最新の超新星3次元流体計算結果に基づいて分子・ダスト形成計算を実行し、形成されるダストのサイズや量とその空間分布、ダスト形成過程に対する3次元ガス密度・温度構造の影響を明らかにする。
さらに、当該研究で再評価したスパッタリングによるダスト破壊効率を用いて、超新星残骸内を伝搬する衝撃波中でのダストの破壊計算も実行する。これまで、一つのガス塊内での衝撃波によるダストの破壊3次元シミュレーションはなされているが、超新星残骸全体でダスト破壊計算を実行した例は世界的にも存在しない。そこで、上記の3次元ダスト形成計算で得られたダストのサイズ・空間分布に基づいて逆行衝撃波によるダスト破壊計算を実行し、超新星から星間空間に最終的に放出されるダストの組成・サイズ・量を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)世界的な新型コロナウイルスの流行により国際会議および国内研究会の現地開催が実施されず、外国旅費・国内旅費として計上していた助成金の使用機会がなかったため。
(使用計画)翌年度分に繰り越した助成金は、主に国際会議と国内研究会への参加のための旅費に充てる。
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