研究課題/領域番号 |
18K03707
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
野沢 貴也 国立天文台, 科学研究部, 特任研究員 (90435975)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダスト / 超新星 / 衝撃波 / スパッタリング |
研究実績の概要 |
「総合的ダスト形成モデルの構築」に関して、これまでの研究で「分子形成」「安定核の凝縮」「ガス降着による核成長」「ダスト同士の合体成長」を整合的に取り扱う“総合的な”ダスト形成計算コードを開発した。しかしこの計算コードは、酸素よりも炭素の存在量が多い炭素過多の環境における炭素質ダストの形成しか取り扱えないものであった。そこで本年度は、酸素過多の環境におけるシリケイトダストの形成も計算できるようにするため、当該研究で構築したダスト形成計算コードの大幅な改良を行った。
その一方で「宇宙固体微粒子の起源」を探るために、本事業二年目よりダストの破壊の観点からも研究を進めている。この研究では、最新の3次元スパッタリング計算コードを駆使して、高温プラズマ中でのスパッタリングによるサブミクロンサイズの宇宙ダストの現実的な破壊効率を導出することを目指す。 本年度は、ターゲットとして非晶質炭素ダストに対して計算を進め、スパッタリング収率に対するその物質密度、表面形状、空隙構造の影響を調べた。しかしそれらの結果を解釈する上で、スパッタリングの基本的な物理素過程を集約することが不可欠であることを認識し、本研究ではスパッタリング過程の本質的理解およびスパッタリング収率への入射粒子・入射エネルギー依存性の解明に専念した。本研究での入念な解析の結果、スパッタリング収率の入射粒子・入射エネルギー依存性は、入射粒子が一回の衝突でターゲット原子を弾き出すエネルギーとその弾き出し衝突が起こる断面積を乗じて得られた「入射粒子からのエネルギー輸送の期待値」で記述できることがわかった。本研究ではさらに、この衝突時のエネルギー輸送効率によってスパッタリング収率のターゲット物質密度依存性が説明できることを示し、スパッタリング収率のシミュレーション結果とともにこれらの成果を国際誌で発表するため論文を執筆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該事業の初年度に、本研究の中核である「分子形成」「安定核の凝縮」「ガス降着による核成長」「ダスト同士の合体成長」を整合的に取り扱う“総合的な”ダスト形成計算コードを構築した。本計算コードの開発は、宇宙の様々な環境におけるダスト形成過程を“統一的な描像”で理解することを目的として進めたものである。 しかし、惑星形成の現場である原始惑星系円盤でのダスト凝縮については、原子惑星系円盤のガス密度が星からの放出ガスのものと比べて5桁以上も高いため、ダスト形成の基本物理過程である原子ガスとの衝突が極めて短いタイムスケールで起こる。その結果、初年度に構築したダスト形成計算コードでは、安定核の生成の計算にあまりにも長い時間を要してしまい、ダスト形成計算を完遂することができない。そこでこのような高密度環境下において、オングストロームサイズの原子から半径数センチの固体粒子までの8桁以上におよぶダストの成長過程を、現実的な計算時間で追えるようにダスト形成の計算速度の向上化を進めているが、未だ計算時間の大幅な短縮には至っていない。
また、宇宙固体微粒子の起源を網羅的に明らかにするため、この“総合的な”ダスト形成モデルを用いて、大質量星の進化末期である赤色超巨星やウォルフ-ライエ星の星風中、また銀河中心核からの銀河風中でのダスト形成も調べ上げることを検討している。しかし本計算モデルには、ダスト前駆物質の分子によるガスの冷却、中心天体からの輻射によるダスト粒子へのフィードバック、輻射圧によるダストの駆動とそれに伴うダスト破壊過程が考慮されておらず、宇宙の様々な環境におけるダスト形成過程を追うには既存のダスト形成計算コードでは十分ではない。そこでこれらの欠点を改善すべく、本ダスト形成計算コードに上記の物理過程を取り入れる作業を進めているが、大きく難航しているのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
近年のALMA電波望遠鏡による高空間分解能の観測から、超新星SN 1987Aの放出ガス中に大量の分子やダストが形成されており、またそれらの空間分布が複雑な3次元構造をしていることが明らかにされている。しかし超新星放出ガス中での分子・ダスト形成の理論計算は、これまで球対称の流体計算結果に対してしか行われていないため、観測結果との比較から分子・ダストの空間分布について議論することができない。そこで、観測された分子・ダストの空間分布を解釈するため、本研究で開発した“総合的な”ダスト形成モデルを超新星爆発の3次元流体計算に組み込むための「ダスト形成計算モジュール」の作製を進める。
一方、本研究で構築した“総合的な”ダスト形成モデルには「分子形成」が考慮されているが、形成された分子によるガスの冷却過程は取り扱われていない。近年の理論研究によれば、超新星放出ガス中で形成されたCO分子の輝線放射が、ガスの温度進化に大きな影響を及ぼすことが示唆されている。そこで、分子形成計算によって得られたCO分子の量に基づいてガスの冷却を計算し、そのガス温度の時間進化に従って整合的にダスト形成を計算できるよう計算コードの改良を行う。
スパッタリングによるダスト破壊の研究としては、これまで行ってきた物質密度・空隙・表面構造の計算結果を総括し、それらのスパッタリング過程に対する依存性を定量的に評価する。また非晶質炭素だけでなく、グラファイトなどの結晶構造をもつ炭素物質についても計算を行い、結晶構造によるスパッタリング収率の違いを調べるとともに、有限サイズの固体微粒子に対しても計算を実行して世界で初めて現実的な星間ダストのスパッタリング収率の導出を行う。最終的には、スパッタリング計算を星間ダストのもう一つの代表的な組成であるシリケイトに適用し、星間ダストのスパッタリングによる破壊過程を調べ上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)世界的な新型コロナウイルスの流行により国際会議および国内研究会の現地開催が実施されず、外国旅費・国内旅費として計上していた助成金の使用機会がなかったため。
(使用計画)翌年度分に繰り越した助成金は、主に国際会議と国内研究会への参加のための旅費に充てる。
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