研究課題/領域番号 |
18K03747
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
小山 亮 気象庁気象研究所, 台風研究部, 主任研究官 (70613826)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ひまわり8号のマルチバンド水蒸気観測 / 極軌道衛星マイクロ波探査計による気温観測 / 台風の眼の中の気温・水蒸気プロファイルの解析 / 高解像非静力学シミュレーションによる検証 / 一次元変分法による客観解析 |
研究実績の概要 |
台風の強化に伴って、中心付近で形成、発達する暖気核の発達プロセスを詳細に把握することは、ゾンデ観測などの現場観測のみでは難しい。この課題解決のため、本研究課題では、台風を常時観測することが可能である衛星観測データを用いて、台風内の詳細な気温、水蒸気の鉛直プロファイルを解析するための手法開発を行った。この手法は、一次元変分法(1D-Var)に基づいており、気象庁全球モデル予報値を第一推定値としている。本手法では、従来の運輸多目的衛星(MTSAT)から大幅に観測バンド数が増加された、静止気象衛星ひまわり8号の3つの水蒸気バンドによる観測、および、極軌道衛星Suomi-NPPの高解像度マイクロ波探査計観測を利用した、気温及び比湿の鉛直プロファイルの解析が可能である。本手法による解析を台風に適用することにより、暖気核の発達に伴った、眼の中の気温の上昇、水蒸気の減少を詳細に捉えることが期待される。 開発した手法によって解析した気温、比湿の鉛直プロファイルを、2017年台風第21号(Lan)を対象として検証した結果、衛星観測と第一推定値の差に応じて、気温、比湿の解析値修正が行われていることを確認した。この結果は、本手法で得られる詳細な大気プロファイル解析が、直接観測に基づく先行研究からは得ることが出来なかった、台風の暖気核の発達、衰弱プロセスに関する知見を与える可能性を示す。 さらに、解析で得られる結果との比較、議論を目的として、高解像度非静力学数値シミュレーションを用いた暖気核の発達プロセスの調査も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
台風の暖気核の発達プロセスの解明を目的として、ひまわり8号の3つの水蒸気バンドによる観測と、極軌道衛星Suomi-NPPの高解像度マイクロ波探査計ATMSの観測を用いた、詳細な気温、比湿プロファイル解析のための手法を開発した。本手法は一次元変分法(1D-Var)に基づいており、解析で用いる背景誤差相関は、第一推定値として用いる気象庁全球モデルの6時間予報誤差に基づき与えた(NMC法:Parrish and Derber 1992)。 開発した手法で解析した気温・比湿の鉛直プロファイルの検証を、2017年台風第21号(Lan)を対象に行い、衛星観測値と第一推定値の差に応じた、気温、比湿の解析値の修正が行われていることを確認した。 さらに、本手法による解析を用いて得られる結果との比較、議論のため、2016年台風第10号(Lionrock)の非静力学数値シミュレーション(水平解像度3km)を用いた調査を行った。結果、台風の暖気核の発達は、眼の中における対流圏界面付近からの高温位空気の沈降によってもたらされていることを示したとともに、この大気沈降の強化には、壁雲内の強い対流(対流バースト)が重要な役割を果たしていることも示された。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に開発した手法によって得た解析値を、気象庁のゾンデ観測や、2017~2018年度に行われた、T-PARC II台風特別観測で得られた航空機ドロップソンデによる直接観測データなどと比較を行い、その妥当性について検証、議論を行う。また、解析精度の改善のため、背景誤差相関、衛星観測誤差の調整についても検討を行う。これらの検証等により、精度が確認された解析データを用いて、いくつかの台風に対する解析を行い、発達中の台風の眼及び暖気核内の気温、比湿プロファイルの時間・空間変化を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
都合により、研究代表者及び研究協力者の一部の国内学会等への出張がキャンセルとなったため。
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