研究課題/領域番号 |
18K03956
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
石綿 良三 神奈川工科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00159790)
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研究分担者 |
田辺 基子 神奈川工科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10460255)
神谷 克政 神奈川工科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (60436243)
根本 光正 神奈川工科大学, 工学部, 助教 (90085134)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 流体力学 / 誤認識 / 科学教育 / ベルヌーイの定理 / 科学動画 |
研究実績の概要 |
多くの科学入門書、テレビ番組、インターネット情報などで流体力学現象の原理の誤認識が多く見られる。誤認識の拡散実態と拡散メカニズムを調査研究し、拡散防止策の提言を進めた。特に、拡散メカニズムには科学的要因だけではなく、著者や読者の理解とその心理、社会的背景等まで踏む必要があり、その追及を行った。 理科教員、科学館スタッフ、科学ボランティア、大学・高専教員を対象に、流体力学に関する原理の把握実態、原理を知ることへの意識、誤情報の実態の理解などを知るためにアンケート調査を行った。さらに、教員や科学館スタッフへの研修会を3回実施し、直接ヒアリングをする機会を設けた。その結果、①研修会に参加した教員や科学ボランティアは向上心、知的好奇心が非常に強い、②流体力学に関する知識は十分とはいえず、大学の専門基礎教育レベル(工学部機械系、航空系など)の教育は受けていない人が多い、③流体力学の基礎が不十分なので、専門的な情報を提示しても誤認識する可能性がある、④「流れの速い所ほど圧力が低くなる」ということがベルヌーイの定理だと認識している人が一定層いる、ということが浮き彫りになった。そのため、情報提供を行う流体力学の専門家は基本となる前提条件や基本原理から始めて相手に提供する必要があることがわかった。 小学校5年理科の教科書・参考書で「曲がる川では外側が速い」と記述されていることについても調査を進めた。実際の川では、外側が速いか、遅いかは一概にはいえない。しかし、内側に堆積している川では外側で速くなることが多く、教科書の記述に合うともいえる。だが、曲がることに外側を速くする効果があると認識させてしまうことは問題であり、大学で習う流体力学とは矛盾することになる。また、さまざまな参考書、動画などは教科書に合う題材ばかりがエビデンスとして表に出ることも事実を歪めてしまう可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科学入門における誤情報については10年以上の調査・分析実績がある。誤認識の拡散実態の大きな傾向は捉えられているので、新規出版図書の傾向を調査し、その傾向は大きくはずれていないことが確認できた。ただし、対象者が若年層にシフトするという傾向はここ5年くらい顕著になっている。 理科教員、科学ボランティア、科学館スタッフ、大学・高専教員への研修会を継続しており(2018年度は6回、2019年度は3回)、理解・知識のレベル、理解している内容、説明されたことをどう理解するのかなどの把握ができた。 日本機械学会を通じて、実験動画公開(楽しい流れの実験教室)や科学イベント(流れのふしぎ展、流れのふしぎ科学教室)を実行し、一般市民から教員までの科学への興味、理解の仕方、科学情報へのニーズなども把握できた。このことは、一般に知識や情報を提供・公開するときにどのように提示していくのがよいか、正しく理解してもらうにはどうすべきかなどの方策の検討に役立てることができる。
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今後の研究の推進方策 |
科学入門書については、この1年に発行されたものを抽出して調査・分析を継続する。それらを過去のデータベースに加えて、全体としての分析を進める。 曲がる川の流れについては、2019年度には厚木市内の河川で実地調査を行ったが、もっと広い範囲で実地調査を計画したい。「曲がり部では外側が速い」ということの普遍性がどの程度かを調べる予定である。 理科教員、科学館スタッフ等への研修会は継続して、関係者の知識・理解レベル、理解の仕方、誤認識の発生する要因などを調べたい。ただし、今年度は新コロナ対応で、集会事業(科学イベント、研修会等)が制限される可能性があり、情勢を見ながら判断したい。 最終年度となるので、これまでの成果を持ち寄り、4名で分析、評価を行い、成果をまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:新コロナウイルスによる緊急事態宣言があり、当初予定していた出張(学会発表、研究会に参加)ができなくなり、旅費の一部使用がなくなったことが第一の原因である。さらに、同影響により、フィールド調査に制限がかかり、これにかかる経費が減ったことが第二の原因である。 使用計画:新コロナウイルスの影響緩和の状況を見ながら、学会発表、研究会などへの旅費に充てる予定である。また、同影響により曲がる川のフィールド調査も控えていたため沈静化に合わせてフィールド調査を行い、そのための経費、旅費等に充てる予定である。
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