研究課題/領域番号 |
18K04007
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
原 謙介 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70508259)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 拘束系の力学 / 流体構造連成 / 微分代数方程式 |
研究実績の概要 |
2020年度は社会情勢の影響を受け,予定していた実験に関する計画に大幅な遅延が生じたため,解析を中心に研究を行なった.まず,これまでに構築した拘束系の力学を応用したALE有限要素解析法について,実験との比較を想定した減衰モデルの導入を行なった.具体的には,流体の粘性によるエネルギー散逸をモーダル減衰によって表すモデルに対して,有限要素法によって得られた固有モードを用いた座標変換を導入し,有限要素法を用いる場合にも利用可能な形にした.そして,予備解析としてスロッシングに関する文献値との比較を行い,良好な一致を確認した.一方,減衰モデルに見通しが立ったことにより,妥当性検証実験に用いる同調スロッシングダンパーに関する装置の仕様に関して具体的な検討を行なうことが可能になった. 次に,構築した手法が拘束条件を利用して流体と構造間の連成や計算メッシュの制御を行うということから,拘束に起因した数値的不安定を緩和するための方程式の離散化手法の導入を試みた.当初は数値粘性の強さを調整可能な一般化α法を有力な候補としていたが,この方法を適用するために必要となる方程式の変形の中に計算負荷が極めて大きい処理が含まれることが明らかになったため,こうした処理の含まれないEnergy-decaying法を用いることとし,第一段階として数値粘性の効果が一定となる方法の適用を行った. また,手法の適用対象の拡大のため,構造系・流体系の双方の解析領域に大変形が発生する弾性平板のフラッタ問題に対して提案手法の適用を試みた.さらに,今年度は解析に割り当てた時間が増えたことにより,フラッタ問題で用いられている代表的な方法の1つである渦格子法を用いた場合についても適用を試みた.その結果,渦格子法を用いた場合には,定式化の段階で部分的に離散化処理を施した方が提案する流体構造連成解析法を適用しやすいことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
妥当な減衰モデルの導入に見通しが立ったことで検証実験へ移行できる段階になったが,社会情勢を受けて実験計画に大幅な変更を余儀無くされた.一方,解析に割り当てられる時間は増えたたため,数値解析法や解析対象の拡大に関して当初の計画よりも詳細な検討を行った. 構築した流体構造連成解析法に関しては,同じ数理構造を持つ拘束要素を含むマルチボディシステムの動力学解析において拘束に起因した数値的不安定が重要な課題となっている.特に,対象とする方程式の形によって適用可能な離散化法とそうでないものが存在するため,拘束系の理論を応用した方程式の変形や離散化手法の持つ数値粘性の効果(安定化のため)に着目して複数の組み合わせを検討し,Energy-decaying法(Time-discontinuous Galerkin approximation)を用いることとした.一方,数値粘性は効果が強すぎると最終的な計算結果へ悪影響を及ぼす場合があるため,数値粘性の強さを任意に変更できる方法への改良を検討している. さらに,構造系・流体系の双方の解析領域に大変形が発生する流体構造連成問題である弾性平板のフラッタ問題へ適用対象の拡大を試みた.特に,フラッタ問題で用いられている代表的な方法の1つである渦格子法を用いた場合についても適用を試みた.この方法は計画段階で想定していたものではなかったため未だ検討の余地が残されているが,有限要素法と渦格子法という異なる離散モデルに提案手法の適用を試みたことで,離散モデルに依存した適切な流体と構造の連成表現が存在する可能性を示唆する結果となった.ここで得られた理論と離散化モデルの関連性,応用における適切な組み合わせに関しては,本手法の拡張,ならびに高度化につながる可能性のあるものとして,さらなる検討を行う価値のあるもの考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
構築したALE有限要素法に基づいたモデルを用いて予備解析・予備実験を進め,妥当性検証実験用の同調スロッシングダンパーの実験装置の仕様を具体化し,2020年度に実施できなかった実験を再開させる. また,数値積分を安定化させる数値粘性の効果を含むEnergy decay法に基づいた離散化手法を導入し,拘束条件を利用して流体と構造間の連成や計算メッシュの制御を行う際の数値的不安定性の改善を検討する.数値粘性は効果が強すぎると最終的な計算結果へ悪影響を及ぼす場合があるため,数値粘性の強さを任意に変更できる方法への改良を行う.特に,提案手法では拘束を介して流体と構造の連成や計算メッシュの制御を行っているため,ここでの数値的安定性は妥当性や適用範囲に直結する問題として十分な検討を行なう必要がある.そして,同調スロッシングダンパーを対象として得られた計算結果と実験との比較を行い,手法の妥当性を検証する. 一方,弾性平板のフラッタ問題に関しては,2020年度に有限要素法と渦格子法の2つの手法に着手したことで,モデルによっては定式化の途中段階で部分的に離散化処理を施した方が構築した拘束系の力学に基づいた流体構造連成解析法を適用しやすい場合があるということが明らかになったため,理論と離散化モデルの関連性,応用における適切な組み合わせに関してさらなる検討を行う.そして,構築したモデルから得られた振動の発生条件や振動発生時の平板の変形の様子をこれまでに行ってきた解析・実験結果と比較することで手法の妥当性の検証を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 社会情勢を受けて実験を計画通りに進めることが困難となったため,実験の実施を次年度に先送りにした.また,解析と実験の結果を比較しながら研究を進める予定だったため,計算機の導入も見送ることにした.このように実験装置や計算機に当てる予定だった分が次年度使用額となった. 【使用計画】 予備解析・予備実験の結果をもとに必要となる加振器の性能(主にアンプ)を見積もり,装置の改良を行う.同様に数値計算に必要となる計算機の仕様を見積もり,それをもとに構成を決定した数値計算用のサーバを導入する.予算を使用する年度は変わるものの,研究費の使用計画で想定していた品目に関しては大きな変更はない.
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