本研究は,認知プロセス分析における眼球運動データの適切な解釈に向けて提案されている逆推論アプローチを援用し,自然状況下の臨床工学技士の診断業務に適用可能な認知タスク分析方法論を構築することが目的である.臨床工学技士を被験者とした不具合探索実験を実施し,データの分析を行い,逆推論アプローチに用いることができる基礎的な資料としてまとめた.さらに逆推論アプローチを援用した眼球運動データ解釈の枠組みの構築および洗練のために,小児科看護師の乳児観察業務,および医師による画像診断業務を模擬した実験をそれぞれ実施した.乳児観察業務においては,主に眼球運動特性と行動・内的なタスクゴールとの関係に関する調査と,技能レベルとの関係調査への適用を行った.ここでは,臨床工学技士の成果に加えて,眼球運動の解釈に向けたデータの特徴の可視化も導入し,分析方法の拡張を行った.医師による画像診断業務においては,次の研究を見据え,内的なタスクゴールの精緻な抽出を実施した.これらの調査の成果を分析の枠組みの構築・洗練に向け繰り返しフィードバックを行った.研究期間内に得られたすべての結果に基づき,逆推論アプローチを援用した眼球運動データ解釈の枠組みを認知タスク分析方法論として整理をして,異なるドメインでの有効性・拡張可能性を検討するために,他の対象に対してここで提案する認知タスク分析方法論の有効性・限界についても整理した.
|