研究課題/領域番号 |
18K04980
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
角屋 豊 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (90263730)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低温成長GaAs / 非線形吸収 / テラヘルツアンテナ / プラズモニクス / 近接場 |
研究実績の概要 |
[1] LTG-GaAsにおける線形・非線形吸収の成膜条件依存性:線形吸収については,面内分布を踏まえた平均値を算出し,成膜条件依存性を調べた.成長温度が高くなると過剰As量が少なく,線形吸収が減少することが明確になった.一方,分布を考慮するとアニール温度依存性の議論は難しいことが分かった.LTG-GaAsの厚さを考慮したモデルを立て,線形吸収係数と非線形吸収を算出した.[2]と合わせて,引き続き論文化を検討している.[2] LTG-GaAsにおける非線形吸収のダイナミクス:ポンプ・プローブ測定において,LTG-GaAsにおける非線形吸収においては,2段階励起の影響は殆ど無く,コヒーレントな2光子吸収が支配的であることを示す結果を得た.再測定においても同様の結果を得たが,論文化に向けて検討中である.[3] 非線形光吸収増強のための金属ナノパターン最適化と実証:昨年度,集束イオンビーム法によるグレーティング型の電極形成には,削り残しや周期ばらつきの問題が明らかになったため,小判型パターンも検討したが,面内平均で十分な増強度が得にくいことが分かった.そこで,電子線露光法で作製可能な薄い金属グレーティングを用いた高増強度構造を探索した.基板内に分布ブラッグ反射器(BDR)を導入することで,集束イオンビーム法によるグレーティングよりも高い増強度が実現できることを見出した.この設計に基づき,グレーティングとDBRの作製条件出しを進めている.[4] LTG-GaAsと電極金属間の電気的接触向上:光伝導アンテナにおけるノイズの定量評価結果(LTG-GaAs作成条件および電極材料依存性含む)がJ. Infrared Millimeter Terahz wavesに掲載された.さらに,THz波信号強度と接触抵抗の関係が実験的に観測できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前記のように,本研究課題の最も重要な目的,目標である,プラズモニック構造によるLTG-GaAs光伝導アンテナの高性能に関して,金属パターンの作製方法として電子線露光法を採用することとし,金属グレーティングとDBR構造を組み合わせることで,高い増強度の素子を実現し得ることを明らかにした.設計は終了しており,素子作製に向けて条件出しを急いでいる.概ね半年程度の遅れとなっている.一方,これらのシミュレーションの中から,金属グレーティングの光学応答の中に,近年物理学で注目を集めている連続順位中束縛状態,および例外点が発生していることを発見した.この結果はNew J. Phys誌に掲載された.当初の目的には含まれていないが,学術的に興味深く,かつフォトニックデバイス応用としても極めて重要な発見であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
[1]および [2]については,再度検討後,両者の結果を合わせて,論文投稿を行う.[3]ついては,電子線露光法によるグレーティング形成,およびDBR作製条件の条件出し行った後,光伝導アンテナを作製,評価する.また,作製した素子における設計からの構造ずれがもたらす影響をFDTDシミュレーションによって明らかにするとともに,その修正方法などを,並行して検討する. [4]に関しては,[3]の素子作製手法を用いて,実際のLT-GaAsにグレーティング電極を形成し,電気的接触向上の可否を明らかにする.これらの評価には直流抵抗だけでなく,ノイズ特性も重視する.さらに,実験的に明らかになりつつあるTHz波検出信号強度と電極特性の関係を明瞭にし,従来放置されていた光伝導アンテナにおけるS/N値と電極接触抵抗の関係を明らかにする.これらによりデバイスモデル構築への道筋をつける.また,金属グレーティングの特異的光学応答(連続順位中束縛状態,および例外点)に関する2報目の論文を完成させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
デバイスデザインの変更に伴う設計を優先したため,デバイス作製に必要な消耗品使用量が減少した.次年度使用額は次年度のデバイス作製に使用する.
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