最終年度の実施内容(1) 非線形光吸収増強のための金属ナノパターン最適化と実証:昨年発案した分布ブラッグ反射器(BDR)と金属グレーティングを併用してファブリペロー共振とプラズモニック共振を共存させる構造において,構造最適化,特に素子作製時に不可避的に発生する寸法誤差を考慮した設計を行うとともに,電子線露光とリフトオフによる金属グレーティングの作製条件の最適化を行った.コロナウィルス感染症まん延や電子線露光装置の故障などの影響で遅れを生じ,非線形吸収増強の観測には至らなかったが,設計と素子作製条件の最適化が完了したので,吸収増強およびTHz波検出感度向上は今後実証する.(2)光伝導アンテナにおける信号および雑音:雑音についてはスペクトラムアナライザを用いた周波数空間での定量化が済んでいた.本年度は実際の時間領域分光(TDS)配置での雑音測定を行い,結果に矛盾が無いことを確認した.一方,信号強度とアンテナデバイスの性質との関係についても種々の条件で作製した素子において測定を行い,低温成長GaAsの作製条件が同じである場合には,光照射下での直流コンダクタンスと信号振幅に概ね比例関係が成り立つこと,逆に従来重要視されていた暗電流との相関は無いことが明らかになった.この結果は国際学会(SPIE)の招待講演にて公表した.また,申請時の提案にあった,非アニールの低温成長GaAs層を用いた接触抵抗低減は効果が無いことも明らかになった. (3) 金属グレーティングの光学応答の中に見られる連続順位中束縛状態(BIC),および例外点:論文投稿を行いNew J. Phys誌に掲載された.研究期間全体では,上記の他にLTG-GaAsにおける線形・非線形吸収の定量化と成膜条件依存性およびダイナミクス測定に基づく,非線形吸収の同定(ほぼコヒーレントな2光子吸収であること)も明らかにした.
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