研究課題
本研究は、レドックス活性錯体を基本とするネットワーク構造体内に、プロトン共役電子移動(PCET)を行うことができる部位を配位子リンカーとして組み込んだ表面構造体や金属有機構造体(MOF)との複合体を構築し、電子+プロトン・イオンの連動を利用したエネルギー蓄積デバイスの作製を目的とした。両末端に四個のホスホン酸基を持ち、架橋配位子としてベンズイミダゾリル基をもつルテニウム二核錯体を合成し、配位結合によるLayer-by-layer (LbL) 法で電極表面に錯体ネットワーク構造をもつ表面積層膜を構築した。表面固定した錯体膜のPCET反応を利用したレドックス電位とpKa値の異なる2種類のルテニウム二核錯体を組み合わせた二電極型デバイスを作成して、プロトン・ロッキングチェア型レドックスキャパシタを構築することに成功し、報告した。また、表面錯体系の上にプルシアンブルー結晶がエピタキシ成長することを見出した。この系でのヘテロ接合系の電子ーイオン取込みがプライマー層のRu錯体の電位で決まることを明らかにした。次に、キノン基による多電子貯蔵能と同時に三座配位子としても働く2,2´-(2,6-ピリジンジイル)ビス(ベンズイミダゾールキノン) (bimQH) およびそのN-メチル誘導体 (bimQMe) とそれらを配位子とするRu錯体の合成を行い、それらの酸化還元特性を詳しく検討した。bimQMeは二段階の還元が可逆過程として観測されたが、プロトン解離サイトを有するbimQHは、第一還元波でのセミキノンラジカルでのイミノN-Hからのプロトン移動により、不可逆過程となる事が分かった。Ru錯体では、bimQHを用いた場合は、還元によって生じるセミキノンラジカルがより反応活性であり、不均化反応を起こすことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
プロトン共役電子移動を利用した蓄電能をPCET反応を示す表面錯体積層膜でのレドックスキャパシタを実現でき、論文化できた。さらに、ルテニウム錯体をプライマー層上でのプルシアンブルーのエピタキシャル成長する系はヘテロ接合系としてイオンー電子移動の連動系として興味深い。一方、キノン部位をもつベンズイミダゾールキノン配位子をもつルテニウム錯体の合成は思いの外、錯体の精製が難しく、純粋な錯体を得るのが難しく苦労したが、学生の粘りによりようやく再現性のある錯体合成および物性が得られるようになり、今後はこの錯体の反応性について検討できるところまで研究を進めることができた。
光励起状態でのレドックス反応が起こせるためには、励起状態の寿命が長い方がいいと思われる。そこで、ルテニウム-2,2'-ビピリジン錯体を基本骨格にもつ補助配位子として(2-ピリジル)イミダゾールベンゾキノン誘導体を導入して、基底状態ならびに励起状態でのプロトン移動を組み込んだ錯体の合成ならびに酸化還元挙動について研究を展開していく予定である。
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