研究課題/領域番号 |
18K05177
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
末田 慎二 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (00325581)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核膜 / 蛍光ラベル化 / 核膜崩壊 / 核膜形成 / 核内膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、ビオチンリガーゼがビオチン化された基質タンパク質と非常に安定な複合体を形成するという性質を有する特異なビオチン化酵素反応を利用して、核膜を選択的に蛍光ラベル化することできる技術を開発し、細胞分裂過程における核膜の動態解析を行うことを目的としている。昨年度の検討により核膜を選択的にラベル化する技術の確立に成功したため、今年度は主としてラベル化した細胞についてタイムラプスイメージングを行い、細胞分裂過程における核膜の動態観察を行った。 ここでは、小胞体などの細胞内の膜ネットワーク全体をラベル化するために、Sec61betaと蛍光タンパク質の融合体をマーカータンパク質として共発現させ観察を行った。その結果、細胞分裂が始まり核膜が崩壊すると、核膜が細胞内の膜ネットワーク全体に吸収され、その後、細胞分裂の終盤に膜ネットワークから染色体周辺に新たな核膜が形成される様子を可視化することに成功した。また、核膜の形成のタイミングをより詳細に追跡するために、ヒストンと蛍光タンパク質の融合体を共発現させることにより、染色体との同時蛍光観察を行った。その結果、細胞分裂過程の後期の終盤から染色体周辺に核膜が形成され始めることが確認できた。 一方で、タイムラプスイメージングによる観察により、核膜のマーカータンパク質が、細胞分裂後に形成された核膜上にも再局在化することがわかった。この原因を解析するために核膜をラベル化した静止状態の細胞について、光退色後蛍光回復(FRAP)アッセイを行うことにより、核膜内でのマーカータンパク質の移動速度を評価した。その結果、核膜のマーカータンパク質の移動速度は、小胞体のものと比較して遅いことがわかり、核膜のマーカータンパク質が染色体と相互作用している可能性が示唆され、この染色体との相互作用が核膜上への再局在化に関与してるのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発した核膜の蛍光ラベル化技術を活用し、細胞分裂過程における核膜の動きを追跡することに成功したため。また、細胞内の膜ネットワーク全体との同時蛍光観察や、染色体との同時蛍光観察にも成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
本ラベル化技術の特性評価をより詳細に行う。具体的にはマーカータンパク質の核膜への再局在化メカニズムの解明を行う。今年度の検討により再局在化の要因として染色体との相互作用が考えられた。ここではマーカータンパク質の構成成分の1つに核移行シグナル(NLS)があり、それが正電荷を有するアミノ酸残基を複数有するため、そのNLS部位と染色体の相互作用により、細胞分裂過程において染色体周辺に再集結する可能性が考えられる。その可能性を詳細に検証するために、NLSの連結数の異なるマーカータンパク質を利用して解析を行う。具体的にはこれまではNLSを3つ連結したマーカータンパク質を利用してきたが、この連結数を減少させたものを利用して解析を行う。また、既存の核膜のラベル化技術との比較を行う。既存の技術では、核内在性タンパク質を利用しているため、そのマーカータンパク質が染色体などの核内成分と強く相互作用することが知られている。核膜上でのマーカータンパク質の移動速度をFRAPアッセイにより評価することにより、本技術の優位性を示す。また、NLSを膜タンパク質に直接に連結した融合体を利用して解析を行い、NLS部位だけで膜タンパク質を核内への移行能できるかどうか評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたよりも旅費として使用した額が少なかったため次年度使用額が生じた。次年度はこの残額を含めた助成金を主として物品費として使用する予定である。
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