本研究では、ビオチンリガーゼがビオチン化された基質タンパク質と非常に安定な複合体を形成するという性質を有する特異なビオチン化酵素反応を利用して、核内膜タンパク質を利用しない、核膜を標的とした新規な蛍光ラベル化技術の開発を目的として研究を進めた。具体的には、ビオチン化酵素反応を利用して蛍光タンパク質を核内膜上で捕捉することにより核膜を選択的にラベル化する技術の開発を行った。実際にこの技術を利用して核膜をラベル化することにより、細胞分裂過程における核膜の動きを追跡することに成功した。具体的には、細胞分裂が始まり核膜が崩壊すると、核膜が細胞内の膜ネットワーク全体に吸収され、その後、細胞分裂の終盤に膜ネットワークから染色体周辺に新たな核膜が形成される様子を可視化することに成功した。また、ヒストンと蛍光タンパク質の融合体を共発現させ、染色体との同時蛍光観察を行ったところ、細胞分裂過程の後期の終盤から染色体周辺に核膜が形成され始めることを確認することができた。 最終年度は蛍光プローブの核内膜への濃縮メカニズムを詳細に解析するために、蛍光プローブに連結した核移行シグナル(NLS)に着目して研究進めた。具体的にはNLSの連結数の異なる蛍光プローブを作成して、それらの核内膜上での移動度を光退色後蛍光回復(FRAP)アッセイを行うことにより評価した。その結果、NLSの連結数が増加するにつれて核内膜上での移動度が小さくなることがわかり、プラスの電荷を有したNLSが核内成分と相互作用していることが推測された。一方でNLSを膜タンパク質に直接に連結させただけでは核内膜へ濃縮できないことも実験を行い明らかにすることができた。したがって、ビオチン化反応により核内膜上でNLSを連結した蛍光プローブを捕捉することにより初めて、核膜のラベル化を実現できることを実証することができた。
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