研究課題/領域番号 |
18K05541
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
竹森 久美子 近畿大学, 農学部, 准教授 (00288888)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エラスチンペプチド / 腎血管障害 / SHRSP |
研究実績の概要 |
エラスチンは、動脈や皮膚など生体の弾性保持に重要な役割を果たしているが、加齢や様々な疾患の進行にともない変性・減少し、重大な機能障害を生じる。本年度は、魚類由来エラスチンペプチドの高血圧性腎血管傷害抑制効果を脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いて検討した。 生後12週齢の雄性SHRSPにエラスチンペプチド(EP:林兼産業)を600mg/kg/dayとなるように、朝夕に1日2回経口投与を(Elastin群)4週間実施した。ラットにエラスチンペプチドを摂取させるとProryl Glycine(PG)が最も多量に血中に移行することを確認した。EP摂取による降圧効果は認められなかったが、典型的な高血圧性血管病変である腎臓の細小動脈における血管壊死の頻度はControl群に比べElastin群で有意に低値であり、腎臓の線維化も抑制されていた。さらに腎糸球体を含む微小血管内皮細胞におけるICAM-1の発現は有意に低く、正常血圧のWKYと同程度の値を示した。また、生後20週齢のSHRSPから採血し、多核型白血球画分(PMN)を得た。生後10週齢の雄性SDラットにEPを1 g/kg経口摂取させ、30分後に採血して得られたEP分解産物を含むplasmaを、チャンバースライドにコートした(EP coat)。処理したチャンバースライドにPMN を添加し、ペプチド非摂取ラットplasma coat処理(Cont coat)と細胞接着数を比較したところ、EP coatではCont coatに比べて白血球の接着が明らかに少数であった。 以上の結果より魚類由来エラスチンぺプチドは、白血球と内皮細胞の接着抑制を介して高血圧性腎血管障害を抑制する作用を有することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は高血圧モデル動物を利用して、エラスチンペプチド分解産物の血中移行すること、またその摂取による高血圧性腎血管障害の抑制がされていることを確認した。その作用機序として、白血球と内皮細胞の接着抑制が生じていることを明らかにしたことから、エラスチンペプチドが炎症およびそれに基づく血管透過性の亢進を抑制する可能性を見出すことに至った。 一方現在は、試験材料は林兼産業から提供された酵素分解ペプチドを材料として利用している。機器の整備状況の遅れから、近大マグロ粉砕ならびにエラスチン精製作業が遅れているため、予備実験で得た結果をもとに定法の破砕方法との比較を行い精製方法の確立と収率の向上手法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は材料となるエラスチンペプチドの収率向上の検討と、エラスチンペプチドの高血圧性腎血管障害発症のメカニズムについての検討を引き続き実施する。 ①近大マグロ動脈球からのエラスチン精製方法を確立し、実験サンプルに使用する収量が得られるかを検証する。 ②エラスチンペプチドの抗炎症作用を明らかにするために、血管炎発症に関与する炎症性サイトカイン(TNFα, IL-1β), 抗好中球細胞質抗体(ANCA),Fibrin monomerの正常ならびに高血圧モデルで定量・比較し、血管炎発症指標となりうる物質の同定を試みる。 ③白血球接着に関する詳細な検討を重ねるため、好中球の活性化の指標として接着分子Mac-1とiNOSの発現をrealtimen PCRならびにフローサイトメトリーで確認する。
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