研究実績の概要 |
エラスチンは、生体の弾性保持に重要な役割を果たしているが、加齢や様々な疾患の進行にともない変性・減少し、重大な機能障害を生じる。昨年度の研究で、我々は魚類由来エラスチンぺプチドは、白血球と内皮細胞の接着抑制を介して高血圧性腎血管障害を抑制することを明らかにした。そこで今年度は好中球のラジカル産生系ならびに白血球表面接着因子の発現変動を追跡した。正常血圧のWKYに比べてヒトの重症高血圧モデルであるSHRSPではiNOS, Mac-1の発現亢進が見られ、好中球の活性化が認められた。更に好中球活性化因子同定のため、ANCA, TNF, IL-6, NATsの血中濃度についてWKYとSHRSPの加齢に伴う変化を比較したが、これらに差は見られなかった。そこで新たな好中球活性化因子の探索を行ったところ、予備試験段階ではあるが、エラスチンペプチドがDPP-4阻害活性を有することをin vitroにおいて確認した。DPP-4はインクレチンの分解の他、炎症部位に好発現することが知られている。また、SHRSPは加齢に伴い糖代謝異常を発症するが、このラットにエラスチンペプチド添加糖負荷試験を実施したところ、インスリン分泌促進を伴う血糖値上昇抑制が確認された。以上のことから、SHRSPにおける好中球活性化因子としてDPP-4の関与が示唆された。 一方で、エラスチンペプチドの新規の供給源として近大マグロ動脈球からのエラスチン精製方法の検討を行った。その結果、動脈球の粉砕の向上は見られたが、アルカリ処理に条件設定が不十分で、精製度・収率の向上には至らなかった。また、熱コアセルベートによるαおよびβエラスチンの分離を試みたが、アミノ酸分析の結果、βエラスチン画分にαエラスチンの混在が認められ、熱コアセルベートを用いてαエラスチンの精製は可能であるが、βエラスチンの精製には限界があることが示された。
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