研究課題
本研究は、網羅的な遺伝子発現プロファイルと辛味成分の含量の比較解析を行い、ワサビを特徴づける辛味成分が作り出された進化的背景を分子レベルで明らかにすることを目的としている。初年度は日本のワサビ属植物の遺伝的多様性を明らかにしたうえで、辛味関連成分の多様性調した。その結果、野生種で極めて多様なGSLの存在が明らかになった一方で、栽培品種においてはGSLの成分組成の多様性は著しく低いことがわかった。この結果は、葉緑体部分塩基配列による系統解析の結果と一致していた。栽培品種では、成分の多様性が著しく低かったのに対して、野生種ではこれまでワサビで報告がなかったGSLの存在が明らかになった。ワサビ属植物での初めての報告になる成分も多く存在し、遺伝資源としての有用性が示された結果となった。興味深いことに、日本のワサビ属植物に特徴的な成分であることが知られていた6-Methylsulfinylhexylおよび6-Methylthiohexyl イソチオシアネートの前駆体GSLの含有量は、栽培系統を含む一部の系統で高い値を示した。深雪違いとの関係も示唆され、ワサビ属植物の日本列島における種分化と栽培化などの進化的歴史と、これらの成分がどのように関係しているのかを今後明らかにしたい。さらに、シミュレーション解析を行い、50年後のワサビ属植物が、気候変動によりどのように分布域を変化させるのかを明らかにすることができた。その結果、地球温暖化により日本海側の積雪量が激減した場合、日本海側の分布域がワサビの適地ではなくなり、野生集団が大きな影響を受けることがわかった。本結果は、遺伝資源の保全、管理の計画をたてるうえで非常に重要な知見となる。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は人口気象機が故障し、実験を断念せざるをえなかったり、その直後のコロナの影響もあり、一次的に実験がストップしてしまったものの、昨年度までの蓄積もあり、おおむね予定通り進んでいるといえる。
本研究で、比較実験を行うための、水耕栽培は安定して実験内で行えるようになった。本課題では今後、この水耕栽培システムを用いて、条件の違いによる化合物生成の変化などを解析する予定である。これまでに、日本のワサビ属植物のグルコシノレートの多様性は一通り検出できているため、ワサビ属植物では、どのような遺伝子がはたらき、この多様性が生じたのかを分析する。そうすることで、どの遺伝子のはたらきが日本固有に生じた反応であるのかどうかを、これまでに明らかにした系統進化から推定することができる。
3月支出予定であったが、コロナで学会も中止しなるなどし、予想外に支出の機会を逸してしまった。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Scientific Reports
巻: 9 ページ: 1-10
https://doi.org/10.1038/s41598-019-49667-z