研究課題/領域番号 |
18K05804
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
喜多村 稔 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 副主任研究員 (00392952)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動物プランクトン / 多様性 / 亜熱帯外洋 |
研究実績の概要 |
時系列観測点S1(30N, 145E)において多段開閉式ネットIONESSを使って得られたサンプルの顕微鏡観察を進め、浮遊性刺胞類の鉛直分布に関わるデータ取得を進めた。本分類群においては、鐘泳亜目管クラゲ類が個体数のうえで卓越し、その中でもLensia属の種多様性が最も高かった。本属は、表層ではLensia subtilisが、深層ではLensia multicristataが卓越し、300m以浅で種数が多かった。
2020年度の航海において得られた試料の顕微鏡観察も同時に進めた。毛顎動物(ヤムシ類)は透明な体を持つゼラチン質の動物プランクトンであるため、補食した餌生物を体外から視認出来る。得られたヤムシ類のうち、比較的大型の個体において、消化管内に繊維状プラスチック様の物質を確認出来た。動物プランクトンにおけるプラスチック誤飲は、カイアシ類やオキアミ類など摂餌流を使って餌を補食する粒子食性種について飼育実験から明らかにした例が多い。ヤムシ類は肉食性で餌の捕獲に際して摂餌流を使わない。今回の観察は、ヤムシ類の摂餌生態を把握するうえで希少な観察例になる。
2021年度の研究航海では、西部北太平洋東経域の亜熱帯外洋を広域にわたって(25~36N, 145~170E)調査する機会を得た。この航海の中で、NORPACネットおよびニューストンネットを用いた動物プランクトン・ニューストン群集の採集およびCTD観測を実施した。衛星海面高度データから中規模渦分布も把握出来ており、動物プランクトン群集の多様性に対して物理環境が与える影響についても考察出来ると考える。ニューストンは海面付近に特異的に分布する生物群を指し、動物プランクトン・稚魚・ウミアメンボ等の昆虫が含まれる。ニューストン群集の水平分布研究は西部北太平洋では知見が限られており、貴重なサンプルセットを得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
以下の理由により進捗が遅れている。 ・新型コロナウイルス感染症拡大に伴い所属機関による出勤制限が導入され、顕微鏡観察に充てる時間が短くなったこと ・調査船「みらい」を用いた約2ヶ月間の研究航海において首席研究員を務めたため、航海準備に時間がかかったこと 特に後者については、コロナウイルス感染症への対応として航海日程の大幅変更や感染対策の強化など通常の研究航海以上の事前調整が首席研究員に課せられたため、2021年夏以降は特に多忙だった。
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今後の研究の推進方策 |
時系列観測点S1における浮遊性刺胞類のサンプル観察を続け、本分類群の群集構造と多様性の鉛直および季節変化について論文化する。また、本研究期間中に得られたNORPACネット標本の解析を続け、動物プランクトン群集の水平変化について論文化する。
繊維状プラスチック様物質を補食していたヤムシ類については、解剖によりプラスチック様物質を消化管内から単離し、プラスチックの同定を行って短報にまとめる。
2021年航海で得られたニューストンネット試料を用いて、バルク生物量、高次分類群組成、種組成に関するデータ取得を行い、これらの水平変化と海洋構造の対応を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関による出勤制限の導入および2021年度研究航海で首席研究員を務めたことで本研究課題の遂行に割く時間が少なくなったため、顕微鏡観察に必要な消耗品調達や論文執筆に伴う英文校閲に遅れが生じ、支出額が低くなった。本課題は研究期間を1年間延長することとし、2022年度に標本観察に用いる消耗品の購入、論文英文校閲、投稿料等に用いる。
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