水産重要種であるアユ養殖においては子持ちアユとしてメスが珍重されており、全雌生産のために遺伝的性判別のニーズが存在する。アユはXX-XY型の性決定様式でありY染色体上の性決定遺伝子によって性が決まると考えられている。性決定遺伝子を同定し遺伝的性を養殖の初期段階で判別することでより多くの雌を生産することができる。またXX個体に対してホルモン処理等の性転換処理を行いXX雄を作出することで全雌生産が可能となる。これまでのアユ天然魚を用いた遺伝解析によりY染色体(雄)特異的なゲノム領域が同定された。本研究ではこの領域に位置する性決定遺伝子候補についてcrispr/cas 法によるゲノム編集を行いその機能を明らかにすることを目的とした。令和2年度はこれまでに検討したアユ卵へのマイクロインジェクションの至適条件に従って、アユ性決定遺伝子候補に対するガイドRNAとCas9タンパク質のマイクロインジェクションを行った。その結果、性決定遺伝子候補に変異が導入され、遺伝的雄(XY)個体であるにもかかわらず卵巣を形成する個体が作出された。次に生殖腺の形態的な性分化前の時期(受精後2カ月)の個体について生殖腺の組織切片を作製し、in situ hybridization法によりアユ性決定遺伝子候補のmRNAの発現を解析した。また性決定遺伝子候補の発現パターンと、生殖細胞のマーカー遺伝子、生殖腺の支持細胞のマーカー遺伝子との発現パターンとの比較を行った。アユ性決定遺伝子候補は形態的な性分化前の時期の生殖腺では、XY個体でのみ生殖細胞を取り囲む体細胞で発現が検出された。XX個体では発現は検出されなかった。これらの結果からこの遺伝子がアユの性決定遺伝子であることが示された。
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