研究課題/領域番号 |
18K05964
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 淳平 北海道大学, 獣医学研究院, 特任准教授 (20732902)
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研究分担者 |
市居 修 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (60547769)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エピゲノム |
研究実績の概要 |
イヌの悪性黒色腫、消化器型リンパ腫および肝細胞癌におけるエピジェネティクス特にDNAメチル化に関し、次世代シークエンサーを用いて新たな知見を得ることによってイヌの腫瘍疾患メカニズムを解明することにつなげるため、令和元年度は以下の項目について検討を行った。 イヌの口腔粘膜型悪性黒色腫28症例と正常犬の口腔内粘膜組織4種類をサンプルとして用いた。 DNAメチル化の状態によって共通の認識部位(CCCGGG)の切断形式が異なる2種類の制限酵素(SmaI, XmaI)を用いてDNAを切断し、次世代シークエンサーを利用して、ゲノム上に存在するCpGサイトのDNAメチル化の定量解析を行った。各サンプルにおいて、約130,000~180,000箇所のCpGサイトにおけるDNAメチル化の定量解析が可能であった。次に、全てのサンプルに共通して得られた約43,000CpGサイトのDNAメチル化データを用いた相関解析およびクラスタリング解析によって、悪性黒色腫症例と正常粘膜組織群の間にDNAメチル化状態の明らかな違いが認められた。また、興味深いことに、脱メチル化に焦点をあてた詳細な解析において悪性黒色腫症例が2群に分類されること、またより脱メチル化が強い群が脱メチル化が弱い群に比べ、予後が悪い傾向があることが判明した。これについて、ヒトの腫瘍における脱メチル化が報告されているLINE1配列におけるDNAメチル化の解析を行ったところ、脱メチル化の程度によって予後と相関している傾向が認められた。 また、消化器型リンパ腫10症例、肝細胞癌12症例についても現在DREAM法による検討を行ったところ、正常肝細胞との明らかな差が見出されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.これまでのイヌ、ならびに獣医領域におけるDNAメチル化の研究はヒトの研究などから類推した限られた遺伝子のプロモーター領域に焦点を当てたものであるが、本研究ではゲノムワイドなDNAメチル化解析が可能であるDREAM法を用いて実際にそのダイナミックな変化を検出した。特に、悪性黒色腫症例がDNAメチル化パターンによって少なくとも2群に分かれることが示されている。これは臨床上では明らかではない分子生物学的メカニズムを示唆するものである。また、消化器型リンパ腫、肝細胞癌においてもDNAメチル化のゲノムワイドな解析を進めており、これまでの報告にない新規性が存在する。 2.一方で、検出されたDNAメチル化の変化による機能的な悪性黒色腫、消化器型リンパ腫、肝細胞癌発生や、悪性度の関連などとの証明までには至っていない。候補遺伝子の適切な抽出、遺伝子発現解析、In vitroにおける機能解析等が必要であり、今後臨床検体を含めたさらなる解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果によって、イヌの悪性黒色腫症例においてもダイナミックかつゲノムワイドなDNAメチル化の変化が認められた。今後、悪性黒色腫の分子生物学的メカニズムまた症例の予後など臨床パラメータに関連する因子の探索を行う。消化器型リンパ腫、肝細胞癌においてもまた明らかにされたDNAメチル化の異常パターンについて解析をすすめる。同様の手法を移行上皮癌においても応用し、さらなる研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していたサンプルの収集と使用予定だった次世代シークエンスによる解析のタイミングが合わなかった。次年度においてさらなる症例のサンプルに対して使用する予定である。
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