研究実績の概要 |
前々年度、前年度に行ったイヌの悪性黒色腫および肝細胞癌におけるエピジェネティクス特にDNAメチル化に関し、次世代シークエンサーを用いて予備的な知見を得たが、令和2年度は以下の項目について検討を行った。 イヌの口腔粘膜型悪性黒色腫28症例と正常犬の口腔内粘膜組織4種類をサンプルとしてDREAM法により解析した。これにより約130,000~180,000箇所のCpGサイトにおけるDNAメチル化レベルが解析可能であり、そのパターンを詳細に解析したところ、リンパ腫など他の腫瘍に比べて悪性黒色腫では脱メチル化の程度が圧倒的に高いことが示された。現在、この脱メチル化が関連すると思われるEMTやインターフェロン経路、レトロトランスポゾン再活性化などに焦点をあて、これらメカニズムによるイヌ悪性黒色腫の分子生物学的な細分類の可能性について評価中である。 また、肝細胞癌12症例と健常犬由来正常肝細胞ならびにクッシング症候群を模したステロイド投与群由来サンプル10サンプルについてもDREAM法による検討を行った。その結果、臨床的には画一的な肝細胞癌12症例がゲノムワイドDNAメチル化パターンの観点からすると複数群に分かれることが示唆された。現在、悪性黒色腫と同じくそのメカニズムの詳細な解析を行っている。また、ステロイド投与群を解析に加えることで、正常群、ステロイド群、肝細胞癌群における連続的なDNAメチル化の変化が一部捉えられた。これが臨床的にクッシング症候群から肝細胞癌へと転換する裏付けとして確証を得るために詳細な解析を行っている。 今後、様々な腫瘍に対するゲノムワイドなDNAメチル化解析を行うために、イヌの各正常組織におけるDNAメチル化情報基盤を築くことが重要である。このため、譲渡を受けたイヌの16種類の正常組織のDREAM解析を行ったところ、各正常組織特有のDNAメチル化パターンを見出すことが可能であった(Yamazaki et al. Sci Rep in press)。
|