研究実績の概要 |
チトクロムc酸化酵素(CcO)は呼吸鎖末端酵素で、酸素の還元とそれに同期したプロトンの能動輸送を担っている。活性中心としてCuA, heme a, heme a3, CuBを有する膜蛋白質である。酸素還元反応の際にCuA, heme aを経て酸素還元中心heme a3, CuBに電子が伝達されるのに同期して、プロトンが能動輸送される。酵素反応サイクル中の幾つかの中間体及び中間体類似の構造を決定して、H-経路プトトンポンプ機構を提案している。この酸素還元とプロトン能動輸送の同期の仕組みの解明を目指している。 酸素還元は6種の反応中間体、R, A, P, F, O, Eを経て段階的に進行する。プロトン能動輸送経路は水チャネルとそれに続く水素結合ネットワークとプロトンプールで構成されている。我々は、R状態で水チャネルが開いて4プロトンがマトリックス側からプロトンプールに蓄積されると主張している。P以降の過程で電子がCuA、heme aをへてheme a3に供給される度に1プロトンずつプロトンプールから水素結合ネットワークを介して膜間腔側に輸送される。R状態(還元型)でのみヘリックスXの構造が水チャネルを開いた状態にする。P,F中間体の構造決定を完了し、これらの中間体の活性中心の構造とこれまで見過ごされていた多型構造を精密に決定し、専門誌に報告した。このことによってP,F中間体の構造結晶学的に確定できた。 O中間体用に調製した結晶試料を厳密に解析したところ、調製法によって結晶中にA中間体、O中間体、E中間体が存在することが判明し、A中間体、O中間体、E中間体の構造を決定して、現在論文作成中である。 完全還元型結晶の再精密化を行い、プロトンポンプにとって重要な役割を果たすヘリックスXに多型構造を同定した。無損傷休止酸化型結晶でも再精密化を行って、活性中心の構造を確定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに反応サイクル中にある6種の全ての構造を決定できたが、多くは論文かに至っていない。一連の実験で得られたA, O, Eの構造を元に早急に論文を作成して専門誌に報告する。 究極の目的である本酵素による酸素還元・プロトンポンプの原子レベルでの理解のために、中間体類似物であるCN-結合酸化型、CN-結合還元型の精密構造解析を行う。 本酵素の機能する仕組みに関する議論において、別のグループの構造を拠り所にした我々とは異なった主張にしばしば遭遇する。しかし、その根拠になっている構造を構造データベース(PDB)に報告されている実験データを元に見直してみると、構造解析に疑問のある場合が散見される。これらの中には、研究の進展に混乱をもたらす恐れが多分にある構造も出ている。他のグループによって報告された構造も含めて報告されたデータを元に再精密化を行う。 これらの結果を総合してCcOによる酸素還元・プロトンポンプの仕組みの統括的な論文を作成する。
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