繊維芽細胞が正しい方向に遊走するためには、細胞前方における微小管の安定化が重要な役割を果たすと考えられているが、いかなるメカニズムで前方の微小管が安定化されるのかはほとんど明らかになっていない。研究代表者はこれまでに、PI3K-Akt1経路が微小管を安定化することにより細胞極性の維持に貢献することを示唆する結果を得た。さらに、Akt1の基質候補分子として微小管結合分子EB2/RP1を新たに見出した。そこで本研究では、PI3K-Akt1経路が微小管結合分子EB2を介して微小管の安定化を促進し、細胞の運動性を制御する可能性について検討を行った。Akt1の基質候補分子EB2/RP1はその機能がほとんど分かっていない分子であったが、これまでにEB2/RP1ノックダウン細胞において、微小管が顕著に安定化し、束化することを明らかにした。さらに、EB2/RP1のノックダウンにより微小管が安定化するメカニズムについて検討を行った。微小管結合分子EB1は伸長する微小管のプラス端に局在し、コメットのような局在パターンを示すが(EB1コメット)、EB2/RP1ノックダウン細胞においてはEB1が微小管のプラス端より内側にも局在するようになり、その結果としてEB1コメットの長さが長くなることが明らかとなった。そこで、EB2/RP1ノックダウン細胞における微小管の安定化が、EB1を介する可能性について検討を行ったところ、EB2/RPのノックダウンにより安定化し束化した微小管は、EB1をノックダウンすることによりコントロール細胞と同じレベルまで戻ることが確認出来た。以上の結果から、EB2/RP1は普段はEB1の局在をプラス端に留めておくことにより、微小管の過度な安定化や束化を抑制し、微小管のダイナミクスを維持している、という仮説を考えている。
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