研究課題/領域番号 |
18K06296
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
井上 和仁 神奈川大学, 理学部, 教授 (20221088)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成 / 水素生産 / シアノバクテリア / ヘテロシスト / ニトロゲナーゼ |
研究実績の概要 |
糸状性シアノバクテリアであるNostocは、窒素飢餓条件下でヘテロシストを分化させ、その内部でニトロゲナーゼを発現して窒素固定を行う。この際、ニトロゲナーゼの基質となる分子状窒素(N2)を欠く人工気相下にNostocを置くと、アンモニアの代わりに、多量の水素(H2)が生成する。培養器内の気相に含まれるN2を制限すると、本来、N2の還元(窒素固定)に利用される還元力が水素イオン(H+)の還元に振り向けられるためである。さらに、ヘテロシスト内部で発現している取り込み型ヒドロゲナーゼHupを不活化すると細胞外に排出されるH2量は大幅に増加する。Hupを不活化したNostocをガラスバイアルに入れて培地中の窒素栄養を制限し気相をアルゴン(Ar)をベースにしてN2を制限すると、内部の気相にH2とO2がほぼ2:1の比で蓄積する。そのままの状態ではH2の発生は停止するが、内部の気相を随時更新することで、H2の生産は数ヶ月にわたって持続する。この間、細胞増殖は抑制されている。本研究は、窒素栄養とN2の制限下に置かれたNostocのHup不活化株の代謝生理を明らかにし、長期にわたり水素生産を可能にするメカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、昨年度からの継続事項としてNostoc野生株とNostocΔHup株を材料に、通常培地と窒素飢餓培地を用い、さらに気相の条件を変えて培養した細胞をサンプリングし、水素発生量、細胞の増殖速度、ヘテロシスト分化率、細胞形態、ニトロゲナーゼ活性、光合成活性など基本的なデータを取得した。また、長期水素生産株のプロテオーム分析の準備として、光合成細菌ヘリオバクテリア細胞を用いた解析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Nostoc野生株とNostocΔHup株を材料に、通常培地と窒素飢餓培地を用い、さらに気相の条件を変えて培養した細胞をサンプリングし、水素発生量、細胞の増殖速度、ヘテロシスト分化率、細胞形態、ニトロゲナーゼ活性、光合成活性など基本的なデータを取得した。さらに長期水素生産株のプロテオーム解析の準備にも着手した。概ね研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度から継続しているNostocのアンテナ色素であるフィコビリンを削減した株の水素生産性の検討を引き続き行う。フィコビリンは主に光化学系IIへ光エネルギーを供給する役割を持つ。しかしフィコビリンは弱光下では集光装置として有効に機能するが、強光下では培養層上部の細胞が過剰な光を吸収して光失活を起こしたり、下層の細胞には遮蔽効果のため十分な光が届かなくなり、全体として水素生産に対する光エネルギーの変換効率が低下する問題を生じる。また、フィコビリンは細胞内で窒素栄養の貯蔵器官としての機能を持つことが指摘されている。栄養制限下に長期に置かれた細胞のプロテオーム解析、ニトロゲナーゼ系などの遺伝子の発現解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に進んだが、分子生物学用試薬類については当初の見込みよりも購入量が少なくて済んだ。また、年度末に学会出張を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い学会が中止となり予定していた旅費が繰越となった。次年度は最終年度でありプロテオーム解析、遺伝子発現解析を見込んでいるため分子生物学用試薬類の購入量が増加する見込みである。論文発表、学会発表も予定しており、今年度から繰り越した助成金を次年度交付される助成金を合わせて賄うこととした。
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