糸状性シアノバクテリアであるNostocは、窒素飢餓条件下でヘテロシストを分化させ、その内部でニトロゲナーゼを発現して窒素固定を行う。この際、ニトロゲナーゼの基質となる分子状窒素(N2)を欠く人工気相下にNostocを置くと、アンモニアの代わりに、多量の水素(H2)が生成する。培養器内の気相に含まれるN2を制限すると、本来、N2の還元(窒素固定)に利用される還元力が水素イオン(H+)の還元に振り向けられるためである。さらに、ヘテロシスト内部で発現している取り込み型ヒドロゲナーゼHupを不活化すると細胞外に排出されるH2量は大幅に増加する。Hupを不活化したNostocをガラスバイアルに入れて培地中の窒素栄養を制限し気相をアルゴン(Ar)をベースにしてN2を制限すると、内部の気相にH2とO2がほぼ2:1の比で蓄積する。そのままの状態ではH2の発生は停止するが、内部の気相を随時更新することで、H2の生産は数ヶ月にわたって持続する。この間、細胞増殖は抑制されている。本研究は、窒素栄養とN2の制限下に置かれたNostocのHup不活化株の代謝生理を明らかにし、長期にわたり水素生産を可能にするメカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、最終年度であり、研究計画の継続事項としてNostoc野生株とNostocΔHup株を材料に、通常培地と窒素飢餓培地を用い、さらに気相の条件を変えて培養した細胞をサンプリングし、水素発生量、細胞の増殖速度、ヘテロシスト分化率、細胞形態、ニトロゲナーゼ活性、光合成活性など基本的なデータを取得した。また、長期水素生産株のゲノムの再編性の有無およびプロテオーム分析に着手した。
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