研究課題/領域番号 |
18K06430
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中島 啓裕 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (80722420)
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研究分担者 |
笠原 康裕 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20273849)
大舘 智志 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60292041)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 動物死体 / 分解 / 死肉性昆虫 / 食肉目 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,夏季(令和元年8月)に北海道二海群八雲町日本大学演習林において野外調査および室内実験を行った.今年度はおもに,抗生物質を用いた実験を行うことで,本研究の最大の課題である昆虫と微生物の間の腐肉をめぐる相互作用を明らかにした.具体的には,一定量の家畜豚およびアライグマのモモ肉に抗生物質(クロラムフェニコール)を混ぜたものを入れたピットフォールトラップ(処理区)と,肉のみを入れたコントロール区をそれぞれ50地点に設け, 5日間毎日,微生物と昆虫類のサンプリングした.市販の専用プレートを用いて,一般生菌,大腸菌および大腸菌群,黄色ブドウ球菌を定量化したところ,処理区では微生物の増殖が抑制されていることが確かめられた.次に2つの区画の間で鞘翅目相に違いがあるかを調べた.この結果,コントロール区では,昨年度アライグマの死体上で観察されたのと同様,科レベルでの時間遷移パターンが認められた.これに対し,処理区では,ゴミムシ科やオサムシ科などの遷移初期種の訪問が長く続き,明確な遷移は認められなかった.このパターンは,豚肉でもアライグマ肉でも類似していた.これらの結果は,微生物が肉の状態を変化させ,来訪する鞘翅目相を左右していることを示しており,微生物の産出する揮発性物質が鞘翅目相の死肉発見の手掛かりとなっていることが示唆された.一方で,コントロール区の肉は3日程度で液状化し,ほとんどの鞘翅目相を誘引しなくなった.従来の研究では,微生物と鞘翅目相は腐肉資源をめぐる競争関係にあることが強調されてきたが,本研究の結果から両者の相互作用は正と負の両面を持った,より複雑なものであることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,微生物と昆虫,さらには脊椎動物が,死肉という貴重な資源をめぐってどの様な相互作用を示しているのかを明らかにすることを目的としている.これまでの調査から,当初の予想通り,死肉における微生物の増殖は昆虫や脊椎動物にとっての資源価値の低下を招くということが確かめられつつある.さらに,微生物が揮発性物質を産生することで昆虫(鞘翅目)の発見の手掛かりを与えることが示唆されるなど,界をまたがる相互作用に多様な側面があることが分かりつつある.一方で,次世代シークエンサーを用いた細菌叢の把握を進めているものの,得られた実験結果を,どのように生物間相互作用の話と結び付けられるのかについてはさらなる検討が必要である.当初,さらに多くのサンプルを対象に次世代シークエンサー解析を行う予定であったが,十分な計画を練り直すことにした.このように,当初の予想を上回る展開が期待される一方で,計画通りに進展しない側面も部分的に存在する.これらのことから,おおむね順調に進展していると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように,フィールド調査は,当初の計画通りに進んでいる.昆虫(とくに双翅目および鞘翅目)の利用パターンについては時間遷移を含めて明らかに出来ている.一方で,微生物実験の計画は一部延期した.令和2年度は,分担者間で緊密に連携し,とくに微生物の実験について詳細な計画を練り直す.そのうえで今年度の計画についても十全な予備実験を行い,効率的に計画を遂行する.さらに,得られた成果を原著論文としてまとめる.現在,すでに得られた成果について論文を執筆中であり,近日中に投稿できる見込みである.他の内容についても,速やかにまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」に記載した通り,計画していた微生物実験の一部を延期することにしたためである.すでに分担者と準備を進めている.課題となっているのは,おもに得られた結果の解釈の部分であり,来年度は着実に計画を遂行できる見込みである.経費は,これらの実験を行うのに必要な試薬などの購入にあてる.
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