心臓の活動電位と筋収縮(収縮―弛緩)=細胞内Ca2+濃度の同期は、心筋興奮初期は興奮―収縮連関によって保証されるが、興奮終焉期の再分極―弛緩の同期を説明する分子機構は報告されていない。本研究の目的は、再分極相に寄与する心筋カリウム(IKs)チャネルが細胞内Ca2+動態関連因子と形成する分子複合体が、心筋興奮終焉期の電気―Ca2+同期システムとして機能する可能性を検証することである。成体ヒトIKsチャネルトランスジェニックマウスの心室細胞抽出液から、免疫沈降法でIKsチャネル分子複合体を単離し、相互作用する分子を質量分析(連携研究者; 永森)により同定した。同定された163種類のタンパク質のパスウェイ解析では、カルシウムシグナリングが最上位になった。中でもNCX1は、コードする遺伝子がゲノムワイド関連解析で、再分極相の延長による不整脈発作を所見とするQT延長症候群に感受性があることが報告されており、この因子に注目した。NCX1との相互作用は、野生型モルモットおよびイヌの心室筋細胞を用いた免疫沈降物のウェスタンブロッティングでも認められ、広く哺乳類動物に共通することが示唆された。相互作用領域を同定する手法として、野生型イヌの心室細胞抽出液とIKsチャネルの細胞内領域―GST融合蛋白質を用いたGSTプルダウンアッセイを確立し、IKsチャネルのC末端に相互作用領域を絞り込んだ。同定した領域は、カルモジュリンとの相互作用領域に極めて近いことから、Ca2+濃度の異なる緩衝液や、カルシウムキレート剤を用いたプルダウンアッセイでは、分子複合体形成におけるCa2+の影響は見られなかった。一方で、新たにIKsチャネルとNCX1は、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を用いた免疫染色でも共局在することを明らかにしたことから、機能連関を検討し、IKsチャネル分子複合体の生理的意義を明らかにしたい。
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