研究課題/領域番号 |
18K06823
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
謝 敏カク 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 助教 (40444210)
|
研究分担者 |
佐藤 真 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 教授 (10222019)
深澤 有吾 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (60343745)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | BDNF / PSD-95 / GluR2-R / PIP3 |
研究実績の概要 |
脳の高次機能には興奮性シナプスの構造的可塑性を伴う機能調節機構が深く関与し、近年、この可塑性制御に脳由来神経栄養因子(BDNF)-TrkBシグナル伝達経路とPI3K-膜脂質(特にホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸)PIP3が重要な役割を担うことが報告された。しかし、PIP3の相互作用分子を含め下流のシグナル伝達経路は不明である。我々は、PIP3に高い結合親和性を持つPhldb2 (pleckstrin homology-like domain、family B、member2、別名LL5β)の機能解析の過程で、Phldb2が長期増強 (LTP) および長期抑制 (LTD) 両方にシナプス可塑性の発現に必須かつ、スパインの形態変化に関与することを発見した。今年度、我々はPhldb2 KOマウスでシナプス後肥厚タンパク質(PSD)-95局在のピークがスパインheadの辺縁から樹状突起シャフトに移動していたことを見出した。この表現型のPhldb2 KOマウス培養海馬神経細胞にPhldb2発現ベクターを導入し、スパインでPSD-95の局在変化がレスキューされたことを観察した。またPhldb2 KOマウスでGluR2受容体のスパイン異常局在表現型をレスキューする為にはPIP3に高感度結合するPH領域を含むPhldb2の導入が必須であることを確認した。以上のことから、Phldb2がスパインでのPSD-95局在およびPIP3が依存的にグルタミン酸受容体のスパイン内係留に関与することを突き止めた。さらに、Golgi染色法によりPhldb2-KO マウスではスパイン成熟に異常が観察され、この現象が電子顕微鏡レベルの高感度で集束イオンビーム(FIBSEM)/三次元構造の再構築法を用い、Phldb2がスパイン形態変化を制御するかどうかを検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Phldb2の発現によってPhldb2 KOマウスでのPSD-95やGluR2-Rの異常局在表現型が修復できる a)Phldb2 KOマウスでは興奮性シナプスでこの分子複合体形成に中心的な役割を担う分子(足場タンパク質)PSD-95局在のピークがスパインheadの辺縁から樹状突起シャフトに移動していたことを見出した。そこで、Phldb2 KOマウス培養海馬神経細胞にPhldb2発現ベクターを導入し、スパインでのPSD-95局在変化がレスキューされた。b)Phldb2 KOマウスではスパインに局在するGluR2の数が減少していることが見られた。そこでPhldb2 KOマウス培養海馬神経細胞にPhldb2が発現するベクターを導入したところ、スパインのGlur2局在が正常になった。しかし、Phldb2 delta PH (PIP3結合領域を欠損する)が 発現するベクターを導入し、レスキューができなかったことから、Phldb2がPIP3に応じ、GluR2を制御していると考えた。 Phldbがスパインの形態変化を制御することの検討 Golgi染色法により、3週齢海馬CA1錐体細胞において、Phldb2-KOマウスのスパイン形態は野生型(WT)に比べ、filopodiaやthinの未成熟型スパインの割合が有意に増加し、mushroom成熟型スパインの割合が有意に減少していた。そこで集束イオンビーム(FIBSEM)/三次元構造の再構築法を用い、海馬CA1領域の樹状突起およびスパイン構造を観察・定量化し、検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
BDNF-TrkB-PIP3-Phldb2下流のエフェクタであるdrebrin A-F-actin の制御機構を明らかにする。 Phldb2-drebrin A-F-actinの複合体の形成過程について検討する。WTとPhldb2-KOマウスの海馬からシナプスの各分画また膜表面にdrebrin A、F-actinの発現量を比較検討する。さらに、スパイン内での局在や、構造的可塑性を誘導した時およびBDNF刺激後におきる結合などBDNF-TrkBPIP3-Phldb2-drebrin A-F-actinの相互作用およびその全体像を明らかにする。 Phldb2がシナプス後でのBDNF合成・放出に関与しているかどうかを明らかにする。(a)構造的可塑性におけるPhldb2の役割の検討。WTとPhldb2-KOマウスの急性海馬スライスにおいて、構造的可塑性を誘導した後、構造スパインの形態変化を観察する。さらに、GFP-Phldb2を導入し、構造的可塑性を誘導した後、スパインでのPhldb2の局在変化を観察する。(b)海馬CA1錐体細胞のBDNF局在の検討。WTとPhldb2-KOマウスの海馬CA1領域において、免疫電顕で錐体細胞の樹状突起、スパイン、シナプスにおけるBDNFの局在を比較検討する。さらに、構造的可塑性を誘導した後、このBDNFの局在がどのように変化するかについて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) SDS-FRL法などの免疫電子顕微鏡法による解析の費用のために翌年に繰越した。 (使用計画) SDS-FRL法などの免疫電子顕微鏡法による解析の費用に充てる。
|