研究課題/領域番号 |
18K07122
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
田嶌 亜紀子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70317973)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 離脱細菌 / 抗菌薬 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでの研究において、バイオフィルムから離脱した黄色ブドウ球菌(離脱細菌)は、表面に細胞外多糖poly-N-acetylglucosamine (PNAG)を多く保持することで、好中球による貪食に抵抗性を示すこと、またマウス感染モデルにおいて、高い病原性を示すことを明らかにした。このことから、治療においては離脱細菌を速やかに殺菌・除去することも重要になってくると考えられ、離脱細菌に対して有効な薬剤・化合物の探索・検討を行った。 網羅的発現解析による離脱細菌の性状解析を行い、離脱細菌を殺菌するための標的の探索を試みた。離脱細菌で増加・減少した複数のタンパク(ストレス応答タンパク、代謝関連タンパクなど)が見られたが、殺菌の標的に結び付くものは得られなかった。次に離脱細菌に有効な抗菌薬について検討した。バイオフィルム内の細菌は抗菌薬に抵抗性があることが報告されているが、離脱細菌では不明である。作用機序の異なる種々の抗菌薬(細胞壁合成阻害剤・タンパク合成阻害剤・核酸合成阻害剤)に対する感受性について調べたところ、離脱細菌はゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬に対して感受性が低下していたが、その他の薬剤(バンコマイシン、ペニシリン系・セフェム系抗菌薬やマクロライド系・オキサゾリジノン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、リファンピシンなど)には感受性を示した。この傾向は、バイオフィルムを音波破砕して得られた浮遊細菌においても見られ、離脱細菌はバイオフィルム内の細菌と共通する性状を保持している可能性が示唆された。以上より離脱細菌は一部の抗菌薬に対しては抵抗性を示すが、多くの抗菌薬が有効であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオフィルム離脱細菌は、高い病原性を示したことから、これに対する治療法について検討を行うため以下の解析をした。 ①網羅的発現解析による離脱細菌殺菌のための標的因子の探索 ②抗菌薬の有効性の解析 ①は、離脱細菌の性状解析から殺菌に有効な標的を見出すことを目的としていたが、有用な結果は得られなかった。②については、離脱細菌は、アミノグリコシド系抗菌薬に対して感受性が低下していたが、その他の多くの抗菌薬に感受性を示すことが判明した。このことから、離脱細菌に対して抗菌薬による治療が有効であることが示唆された。 離脱細菌は菌表面に細胞外多糖PNAGを多く保持しているため、抗体治療が可能であると考えられる。既にPNAGを標的としたワクチン研究において抗体による感染防御の報告(Proc Natl Acad Sci U S A. 2013. 110 (24) )があることから、本件においてもその有効性が期待されるが、それとは別の新たなアプローチとして、レクチン応用の可能性について検討を行っている。 以上より、概ね計画通り進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
バイオフィルム離脱細菌は、抗菌薬への感受性を示したが、離脱細菌が保持する細胞外多糖PNAGは、病原因子として、好中球による貪食阻害に加え宿主細胞への付着や浸潤に関与することが報告(PLoS One. 2015; 10(4), PLoS Pathog. 2019 Feb 11;15(2))されている。そこで当初の計画には含まれていないが、離脱細菌に対する治療法として、レクチンの有用性について検討する。レクチンは、菌表面への結合や宿主細胞への作用を通して免疫応答に関与しており、種々のレクチンを用いて、菌の付着や貪食への影響などを解析する。 また、バイオフィルムの離脱が生体内で起こり、菌の播種・感染拡大をもたらすのか、抗菌薬投与が有効であるのかを明らかにするために、マウスモデルを用いたバイオフィルム離脱の解析について検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
2019度行う予定の網羅的発現解析を外部委託せずに行ったため、予定よりも支出が減少したが、この分については、新たに追加した実験の解析に使用する。
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