研究課題
本研究は、ADAR1の癌特異的作用に関わるRNA編集点を網羅的に探索し、調節を受ける分子とその関連結合分子やパスウェイを詳細に解明することを目的に行った。これまでの研究で作成した癌促進型RBP(csRBP)候補リストから、2種類のcsRBPに着目し、免疫沈降でRBP特異的に結合するRNAを回収し、ADAR1量によって結合が変化する「結合変化mRNAリスト」を作成した。また、ADAR1量によって発現量が変化する「発現変化mRNAリスト」を作成した。まず「発現変化mRNAリスト」を用いたGO解析から50遺伝子を候補遺伝子として抽出した。さらに既知の遺伝子情報などを用いて5遺伝子に絞り込み、これらのうち2遺伝子でADAR1量に相関してcsRBPとの結合が変化し、発現量が変化することを明らかにした。次に、「発現変化mRNAリスト」と「結合変化mRNAリスト」を用いてGSEA解析を行い、発現変動した遺伝子群がどの遺伝子セットに偏っているか検討した。その結果、ADAR1をノックダウンすると、免疫応答に関与する経路(KEGG_TOLL_LIKE_RECEPTOR_SIGNALING_PATHWAYなど)と、MAPキナーゼ経路が抑制された。またADAR1量の減少によりcsRBP1(研究室名)との結合が変化した遺伝子群は、細胞周期制御に関連する因子が多く含まれていること、一方csRBP2(研究室名)に関しては細胞接着に関係する因子が多く含まれていることが明らかとなった。このことから、ADAR1は食道癌の増殖、浸潤ならびにがん免疫を制御する遺伝子群のmRNA非翻訳領域にA-to-I RNA編集をおこし、これらを標的とするRBPとの複合体形成を調節することで、癌細胞内での転写後調節機構の破綻を誘導するハブ因子である可能性が示唆された。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Scientific reports
巻: 11 ページ: 9552
10.1038/s41598-021-89063-0