加齢が関わる胃発癌機序を、幹細胞の老化の視点から、比較的新規の3次元細胞培養系であるオルガノイドを用いて解明することを目的とした。令和元年度までにマウス胃粘膜組織から安定的に胃オルガノイド樹立する実験系を確立した。これを踏まえて、若年マウス(2~4月齢)と加齢マウス(18~22月齢) 同数の胃粘膜組織から胃オルガノイド樹立を試み、バンク化した。同じ条件下で各々複数回継代培養をした結果、加齢マウス由来の胃オルガノイドは若年由来に比較して、形態学的に大きく、CellTiter-Glo 3D Cell Viability Assayでの検討では細胞増殖能は亢進し、またqPCRの検討では MKi67遺伝子発現亢進していた。この細胞増殖能亢進は、Wnt/beta-cateninシグナル経路に依存していた。 次に加齢および若年由来胃オルガノイドからRNAを抽出して、96-well TaqMan array plateあるいはClariomTM S Mouse Arrayを用いて網羅的に遺伝子発現解析を進めた。その結果、加齢と若年由来胃オルガノイド間では、Wnt/beta-cateninシグナル経路上の細胞膜受容体に関連するFzd、Lrp5/6、Znrf3、Lgr5といった遺伝子の発現に差は認めなかった。また、分化制御遺伝子・幹細胞マーカーであるNotch1、そのターゲット遺伝子であるHes1やAtoh1の発現亢進はみられなかった。一方、細胞周期上で細胞老化に関わるp53、p16、p21の発現低下がみられた。 このため、加齢由来の胃粘膜細胞の一部では、生理的な細胞老化から逸脱して、細胞増殖能が亢進し発癌に結びつく可能性が示唆された。
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