栄養維持に関連した腸内細菌叢形成におけるピロリ菌感染の意義の検討

2019 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K07938
• 研究機関: 東京医科大学
• 研究代表者: 杉本 光繁 東京医科大学, 医学部, 教授 (80397398)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: Helicobacter pylori / 腸内細菌 / dysbiosis / グレリン

研究実績の概要

低栄養状態は高齢者、悪性疾患、神経性無食欲症例などの予後規定因子である。近年、摂食ペプチドホルモンのグレリンやレプチンが種々の疾患の低栄養状態に関与することが知られているが、グレリンの発現量はH. pylori(HP)感染や胃粘膜萎縮などの胃内環境により規定され、除菌治療介入でグレリン値や栄養指標が改善することから、HP感染が栄養環境の調整役として新たなターゲットとなる可能性が示されている。また、腸内細菌叢の乱れが循環代謝疾患の発症リスクを増し、同時に脳腸相関にも関連して栄養環境にも影響するため、除菌治療後の栄養改善はグレリンの増加作用に加え、脳腸相関の活性化、腸内細菌叢変化との相加相乗作用によると考えられる。本研究は、栄養指標に対する腸内細菌叢とHP感染やその病原因子、グレリン発現量との関係性を明確にし、除菌治療による腸内細
菌叢変化に着目した栄養環境や疾患の予後改善効果を動物モデルと臨床試験で証明することを目的とした。
HP感染に関連した栄養過多/栄養障害症例の腸内細菌叢プロファイルの評価を行うことを目的に、栄養過多症例、栄養障害症例、健常者の登録を行うべく、滋賀医科大学の倫理委員会で研究計画の承認を得、現在透析症例を対象に患者登録を開始している。現在検体を集積しているところでるが、新型コロナ感染症の蔓延により、内視鏡検査は感染リスクが高く、不要不急の医療検査は中止が要請されているなかで、継続することが難しい状況となっている。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究実績の概要に記載したごとく、HP感染に関連した栄養過多/栄養障害症例の腸内細菌叢プロファイルの評価を行うために研究計画を滋賀医科大学の倫理委員会で研究計画の承認を得、現在透析症例を対象に患者登録を開始している。現在検体を集積しているところであり、集積後には解析、HP除菌後の経過観察などを行なっていく予定である。
糞便検体は16SrRNA次世代シーケンス法で腸内細菌叢プロファイル同定し、血清中のグレリン/レプチン濃度と各種栄養関連指標との相関性を検討していく予定である。また、H. pylori陽性症例に対しては除菌治療介入を行うことで、栄養関連指標への影響も検討する予定である。
現在検体を集積しているところでるが、新型コロナ感染症の蔓延により、内視鏡検査や糞便の収集は感染リスクが高く、スクリーニングで行う内視鏡検査は不要不急の医療検査は中止が要請されているなかで、継続することが難しい状況となっている。

今後の研究の推進方策

上記のごとく臨床研究は既に倫理委員会の承認が得られており、症例の集積を開始している。今後は研究協力施設との協力体制を強化し、早急に解説に移ることができるように研究体制を調整したい。

次年度使用額が生じた理由

研究計画を立て際には1年時にも実際の検体の測定費用を計上していたが、集積後のまとめて測定するように計画を変更したために次年度使用額が計上される形となった。
16SrRNA次世代シーケンス法での腸内フローラの測定費用やグレリン/レプチン濃度測定費用として次年度に使用する予定である。
また、主研究者が滋賀医科大学より東京医科大学へ異動となり、その期間において準備などのために研究が一次中断したため。

研究成果

• [雑誌論文] Randomised clinical trial: a cross-over study of acid inhibition by vonoprazan 10/20 mg once daily versus rabeprazole 10/20 mg twice daily in healthy Japanese volunteers (SAMURAI pH study) (2020)
  • 著者名/発表者名: Takeuchi T, Furuta T, Fujiwara Y, Sugimoto M, Kasugai K, Kusano M, Okada H, Suzuk T, Higuchi T, Kagami T, Uotani T, Yamade M, Sawada A, Tanaka F, Harada S, Ota K, Kojima Y, Murata M, Tamura Y, Funaki Y, Kawamura O, Okamoto Y, Fujimoto K, Higuchi K
  • 雑誌名: Aliment Pharmacol Ther 巻: ５１ ページ: 534-543
  • DOI: 10.1111/apt.15641
  • 査読あり
• [雑誌論文] Chemoprevention of gastric cancer development after Helicobacter pylori eradication therapy in an East Asian population: Meta-analysis (2020)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto M, Murata T, Yamaoka Y
  • 雑誌名: World J Gastroenterol 巻: 26 ページ: 1820-1840
  • 査読あり
• [雑誌論文] Clarithromycin versus metronidazole in first-line Helicobacter pylori triple eradication therapy based on resistance to antimicrobial agents: meta-analysis (2020)
  • 著者名/発表者名: Murata M, Sugimoto M, Mizuni H, Kanno T, Sato K
  • 雑誌名: J Clin Med 巻: 9 ページ: 543
  • DOI: 10.3390/jcm9020543.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Histological analysis of fundic gland polyps enlarged by proton pump inhibitors (2019)
  • 著者名/発表者名: Fukuda M, Ishigaki H, Sugimoto M, Mukaisho K, Matsubara A, Ishida H, Moritani S, Itoh Y, Sugihara H, Andoh A, Ogasawara K, Murakami K, Kushima R
  • 雑誌名: Histopathology 巻: 75 ページ: 537-545
  • DOI: 10.1111/his.13902
  • 査読あり
• [雑誌論文] Role of vonoprazan in Helicobacter pylori eradication therapy in Japan (2019)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto M, Yamaoka Y
  • 雑誌名: Front Pharmacol 巻: 9 ページ: 1560
  • DOI: 10.3389/fphar.2018.01560.
  • 査読あり
• [学会発表] P-CABを第一選択としたGERD診療の功罪 (2020)
  • 著者名/発表者名: 杉本光繁
  • 学会等名: 第16回 日本消化管学会学術集会
  • 招待講演
• [学会発表] Genetic and bacterial factors for outcome of vonoprazan-containing Helicobacter pylori eradication therapy in Japanese (2019)
  • 著者名/発表者名: Mitsushige Sugimoto, Masaki Murata, Taketo Otsuka, Atsushi Nishida, Osamu Inatomi, Shigeki Bamba, Akira Andoh
  • 学会等名: DDW 2019
  • 国際学会
• [学会発表] 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後の人工潰瘍治癒におけるCYP2C19遺伝子多型の影響 (2019)
  • 著者名/発表者名: 杉本 光繁 、伴 宏充
  • 学会等名: 第40回 日本臨床薬理学会学術集会