研究実績の概要 |
膵癌の”Big4”と呼ばれ共通でみられる遺伝子変異のうちINK4A, TP53, SMAD4の3つは機能喪失型であり、KRASを含めたそれらのゲノム変異は膵癌の生物学的悪性度を規定できないことが知られている。つまり残念ながら膵癌のゲノム異常は治療標的とはなり難い。特定の癌に対する分子標的薬の有効性は、その癌細胞におけるoncogene addiction を背景とするが、これは癌細胞が生存を依存する癌遺伝子変異の働きを阻害することに他ならない。一方で遺伝子変異のみならず、癌細胞は周囲の微小環境からの外部応答にさらされた結果、有利な遺伝子発現パターンを誘導するエピゲノムプロファイルを確立している可能性がある。エピゲノムとは、DNAの配列変化を伴わずに遺伝子転写を制御するDNAメチル化やヒストン修飾の総称であり、細胞分化、代謝状態や免疫応答と相互に関連し合うことから、多彩な機序で膵癌の性質に影響を及ぼしうる。そのエピゲノム修飾を標的とする薬剤は近年海外を中心に次々に開発され、一部の血液腫瘍ではすでにグローバルなDNAメチル化阻害薬(AZA)やHDAC阻害剤が臨床導入されている。ただし膵癌ではAZAやHDAC阻害薬の有効性は示されておらず、また様々なエピゲノム修飾酵素を阻害する特異的な分子標的薬の有効性についても未だ十分な検討はなされていない。本研究の目的は、樹立した患者由来膵癌細胞を用いて、膵癌細胞がその生存や増殖をaddictするエピゲノムプロファイルを探索することである。同時に様々なエピゲノム阻害化合物に対する感受性をスクリーニングし、有効なエピゲノム制御因子の分子標的を明らかにする。これまでにCDK7 inhibitorの有効性を見出し、様々な患者由来膵癌細胞における有効性の再現性とその効果の分子機序について解析を行っている。
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