研究実績の概要 |
多能性幹細胞から心筋細胞を誘導するためには、複数の液性因子を使用し、心臓中胚葉を誘導してから心筋に分化させる方法が一般的である。しかし、この方法には1)誘導の工程が煩雑、2)誘導効率が不安定、3)液性因子が高価であるという課題がある。心臓中胚葉誘導の分子機構や心臓中胚葉誘導因子は同定されておらず、この機構を解明し誘導因子を同定することで、因子発現のみで多能性幹細胞から選択的に心臓中胚葉細胞の誘導が可能になりうると考えた。ダイレクトリプログラミングを応用したスクリーニングにより線維芽細胞から心臓中胚葉細胞を直接誘導する遺伝子Tbx6を発見し、Tbx6をマウスES細胞・ヒトiPS細胞といった多能性幹細胞に導入することにより、液性因子を使用せずに心臓中胚葉細胞を誘導できることを発見した。さらにTbx6の発現期間を調整することで、同じく中胚葉から分化する骨格筋や軟骨細胞も誘導が可能であることを見出した。 発現期間の変化による分化制御機構の解明のため、我々は沿軸中胚葉発生に関与し、かつ心臓中胚葉以降の心血管系分化を阻害するシグナルであるWnt3と、その下流の因子であるMsx1, Cdx2の遺伝子発現を解析した。その結果、一過性のTbx6発現と比較し、Tbx6の持続的な発現によりWnt3の発現が誘導され、その後にMsx1, Cdx2の発現が誘導されていることが明らかとなった。このMsx1, Cdx2を3日間のTbx6発現により分化させた心臓中胚葉細胞に過剰発現させたところ、心筋誘導が著明に抑制され、Tbx6の持続発現によるWnt3, Msx1, Cdx2発現の誘導が、心血管系への分化を阻害する機序の一部分を担うことが判明した。
|