我々は初期中胚葉で発現しているTbx6遺伝子を多能性幹細胞に導入することにより、液性因子を使用せずに心臓幹細胞である心臓中胚葉細胞を作製し、そこから心筋細胞や血管内皮細胞を誘導する新たな心筋・血管細胞作製法を開発した。そこで多能性幹細胞からの心臓中胚葉誘導因子Tbx6の知見を応用し、線維芽細胞から心臓幹細胞を直接作製する、心臓幹細胞直接リプログラミング法の開発を着想した。 1.Tbx6は線維芽細胞から心臓中胚葉細胞を誘導する:マウス胎児線維芽細胞にTbx6遺伝子を導入したところ、心臓中胚葉マーカー遺伝子が誘導され、長期にわたって発現が維持されていた。分化が進んだ心臓前駆細胞・胎児心筋に発現する遺伝子群は誘導されておらず、心血管系細胞への分化にはTbx6以外に、心血管系への誘導を促進する遺伝子の追加が必要であることが示唆された。検討の結果、Tbx6に加えて複数の因子を導入することで、一過性の心臓中胚葉遺伝子の上昇の後に、より分化した遺伝子群の上昇を認めた。遺伝子改変マウスの線維芽細胞を用いた検討では、一部の心筋細胞では、誘導した心臓中胚葉細胞から心筋細胞が分化したことが示された。一方で、その誘導効率は低く、心筋誘導を促進する必要があった。 2.心筋誘導を促進する柔らかい足場の発見と、分子生物学的機序の解明:これまでの先行研究の成果より、生体内でリプログラミングされた心筋細胞はより成熟した性質を持っていることがわかっている。我々は心筋誘導を促進する環境として、細胞周囲の足場の硬さに着目した。この環境を再現するため、我々はハイドロゲルを用いた培養系を構築し、任意の硬さの足場を再現できる実験系を確立した。心筋誘導効率は、硬い培養皿よりも足場が柔らかくなると改善することが判明し、その分子生物学機序がインテグリンシグナルを介したYAP/TAZの抑制であることを明らかにした。
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