研究課題/領域番号 |
18K08317
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山岸 誠 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任講師 (90625261)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ウイルス / エピゲノム / HTLV-1 / EBウイルス / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
HTLV-1キャリアに存在する感染細胞は末梢血中の頻度が低く、正確な特徴は明らかにされていなかった。そこでキャリア、HAM、ATL累計45症例から特異的表面抗原を用いて非感染細胞、HTLV-1感染細胞、腫瘍細胞を分取し、発現アレイ及びRNA-seqによって全遺伝子発現データを取得した。各病型における感染細胞の特徴と進展に伴う変化を明らかにし、複数の標的候補分子と進展予知マーカー候補の同定に成功した。さらにウイルスベクターを用いてHTLV-1 Taxを導入したT細胞を解析した結果、Taxは感染後早期にNF-kB経路などを介して様々な遺伝子発現異常を引き起こし、ATL細胞の基礎を形成することを明らかにした。さらに感染細胞集団の不均一性を理解するために、indolent ATL症例を対象にシングルセルRNA-seqを実施し、各集団のT細胞分化制御や腫瘍細胞特異的な発現異常パターンを見出した。 純化した腫瘍細胞及び感染細胞を対象に、ATAC-seqによって全クロマチン構造データを取得した。比較解析の結果、感染細胞は正常T細胞と明らかに異なるエピゲノムを有していることを明らかにした。またRNA-seqとの統合解析により、遺伝子発現パターンを形成する根本原因の一つであることを示した。さらにChIP-seqとの統合解析から、エピゲノム異常の原因となるヒストン修飾の実態と原因因子EZH1およびEZH2の重要性を見出した。そこで、LC-MS/MSによってATL細胞のEZH1/2複合体質量分析を実施し、クロマチン上の異常分布の原因因子の検討も行っている。 多層的オミックスデータを用いて感染細胞のクローン進化を検討したところ、感染細胞は共通する特徴的なクロマチン構造の形成によって悪性細胞の素地が完成されており、その後のATLへの進展にはゲノム異常を伴う後期のクローン進化が重要であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
臨床検体及び感染モデルを対象に複数の網羅的解析技術を駆使したことにより、世界で初めてHTLV-1感染細胞の生物学的特徴を明らかにすることに成功し、さらに分子標的候補を複数同定することにも成功した。さらにATAC-seqを用いることで、これまで困難であった微小検体からエピゲノム異常の実態を明らかにし、さらに分子標的としてのEZH1/2の重要性も示した。本研究の成果から、ウイルス感染がエピゲノムに介入して宿主を制御するという新たなコンセプトが示されたと考える。また前癌状態におけるエピゲノムの重要性を明らかにしたことから、早期治療介入を目指す上でエピゲノム創薬の重要性が改めて示されたと考える。 初年度分の研究計画をすべて達成し、さらに臨床検体データとの統合やエピゲノム解析、質量分析なども前倒しで実施している。研究成果は国内外の学会やシンポジウムで発表し、複数の賞にも選出されている。従って計画研究は順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果により、ウイルス感染が宿主エピゲノムに介入して宿主を制御するというコンセプトが示された。次年度はこれまでに開発した解析技術を駆使して、HTLV-1感染症の発症メカニズムと発症に至るエピゲノムの推移を明らかにし、さらにエピゲノム薬の有用性についても証明する。またヒト化マウスを用いた感染モデルの構築にもすでに成功しており、ウイルス感染が固体内でどのような挙動を示すかを解析する予定である。さらに、EBウイルスについても解析準備を完了しており、計画通りに進行する予定である。研究成果は学会発表、論文等で積極的に公表する。
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