研究課題
キャリア、HAM、ATL累計55症例、及び正常T細胞を対象に、マイクロアレイおよびRNA-seqを用いて全遺伝子発現データを解析し、ATL細胞の基盤となる性質がキャリア体内で形成されていることを証明した。また、発現データベースから複数の標的候補分子の同定にも成功した。遺伝子発現異常の原因となるエピゲノム変化を明らかにするため、HAM、ATLの感染細胞分画、及び正常T細胞を対象に、ATAC-seqおよびChIP-seqによるエピゲノム解析を実施した。感染細胞の特異的なクロマチン構造は遺伝子発現パターンの決定に極めて重要な要因であり、ATL、HAMへの運命制御メカニズムの一端が明らかになった。さらに、感染初期の変化を検討するため、Tax導入CD4+ T細胞モデル、およびHTLV-1感染ヒト化マウスの継続的な解析を実施した。感染からの遺伝子発現/エピゲノムの推移をRNA-seqおよびATAC-seqで検討した結果、クロマチン構造のダイナミックな変化が感染細胞の素地となり、さらにその後の腫瘍化過程で獲得する遺伝子変異と共役し、高悪性度の腫瘍細胞へと進展することを見出した。シングルセルRNA-seqおよびシングルセルATAC-seqによる高解像度データを取得することで、腫瘍内進化の過程も明らかにした。ポリクローナルな感染細胞集団はTh1様の性質を持ち炎症が強い一方で、遺伝子異常によってモノクローナルに増殖した細胞は炎症形質が低く、ATL細胞により近い性質を保持していた。このクローン進化モデルにはH3K27me3パターンとクロマチン構造変化が密接に関わっており、感染初期から長期潜伏期における継続的なエピゲノム変化の実態が明らかになった。EZH1/2阻害薬の有効性評価については、ATLおよびキャリア計50症例に対する薬効評価を完了し、ほぼ全ての症例で非臨床有効性を確認した。さらに多層的オミックスデータから、EZH1/2によるエピゲノム異常が感染初期に成立することを証明した(Yamagishi et al., Cell Rep. 2019)。
1: 当初の計画以上に進展している
臨床検体及び感染モデルを対象に複数の網羅的解析技術を駆使してデータを取得し、さらにこれらの多層データを統合することにより、世界で初めてHTLV-1感染細胞の生物学的特徴を明らかにすることに成功し、さらに分子標的候補を複数同定することにも成功した。さらにATAC-seqとChIP-seqを組み合わせて用いることで、これまで困難であった微小検体からエピゲノム異常の実態を明らかにし、さらに分子標的としてのEZH1/2の重要性も示した。本研究の成果から、ウイルス感染がエピゲノムに介入して宿主を制御し、さらにこれらが発症メカニズムと密接に関連していることを示した。また、感染後の初期エピゲノム変化と、その後の集団内進化で獲得する後期エピゲノム変化を明らかにし、これらに共通するEZH1/2によるH3K27me3のような異常を分子標的とすることが、より効果的な早期治療介入の実現に重要であると考えられた。臨床検体データとの統合やエピゲノム解析、質量分析なども前倒しで実施し、さらにシングルセル解析も取り入れることで、当初の計画以上の成果をあげることができた。
本研究成果により、ウイルス感染が宿主エピゲノムに介入して宿主を制御するというコンセプトが示された。最終年度はこれまでに開発した解析技術を駆使して、HTLV-1感染症の発症に至るエピゲノム推移を明らかにし、さらにエピゲノム薬の有用性についても証明する。特に、本研究で確立した多層シングルセルデータの統合解析プラットフォームは、感染細胞だけでなく、免疫担当細胞も含めた全集団の遺伝子発現とその原因メカニズムであるエピゲノムを高解像度で明らかにすることができ、非常に有用であった。最終年度は、同手法を用いてヒト化マウスモデルの継時的に解析することで、HTLV-1感染によるエピゲノム変化の全体像を掴み、さらに臨床検体データベースと統合することで、早期エピゲノム変化の重要性と分子標的として妥当性をさらに検証する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
Proc. Natl. Acad. Sci. U S A
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