研究課題
高感度FCMを用いたHLAクラスIアレル欠失(HLA[-])血球とGPIアンカー膜蛋白欠失(GPI[-])血球の解析により、血小板を含む全ての血球系統にHLA(-)細胞が検出される再生不良性貧血(AA)患者の割合は、GPI(-)細胞の割合よりも高いことが明らかになった。HLA(-)細胞とGPI(-)細胞の両方を有するAA患者においても、HLA(-)細胞はGPI(-)細胞よりも広範囲の系統にみられることから、AAを発症させるCTLは未分化な造血幹細胞を標的にしている一方で、GPI(-)血球の起源は、CTLの標的となる造血幹細胞よりも分化の進んだ造血幹前駆細胞であることが示唆された。それぞれの異常血球の増殖に及ぼす免疫抑制療法の影響を明らかにするため、HLA(-)顆粒球とGPI(-)顆粒球の両者を有し、シクロスポリン(CsA)投与を受けた患者を対象として、それぞれの血球比率の推移をみたところ、HLA(-)細胞の割合は、CsA投与中は低下するものの、CsA中止後の造血安定期には再び増加する傾向がみられた。このことから、免疫病態によるAA患者では、免疫抑制剤中止後の寛解状態においてもCTLの攻撃が持続していることが示唆された。一方、GPI(-)細胞割合の推移は免疫抑制剤の影響を受けなかった。HLA(-)細胞とGPI(-)細胞の推移に何らかのドライバー変異が寄与していないかを標的シーケンシングで調べたが、増加傾向を示す例においても明らかな体細胞変異はみられなかった。一方、難治性AA38症例を対象としてエルトロンボパグ(EPAG)に対する反応予測因子を検討したところ、治療開始時のPNH型血球の存在と血小板数高値の二つが有意な予測因子であった。したがって、難治性であっても、GPI(-)血球が存在しているような免疫病態がくすぶっているAA例ではEPAGが奏効しやすい可能性が示唆された。
3: やや遅れている
上記の「HLA(-)血球やGPI(-)血球を保有している患者では、免疫抑制療法に対する反応性が高いだけではなく、エルトロンボパグ(EPAG)に対する反応性も高い」という仮説を検証するため、西日本血液臨床研究グループで行っている臨床試験「サイモグロブリン+シクロスポリン+エルトロンボパグ(EPAG)による初回治療の有用性の検討」の登録症例を対象として、治療反応性と、HLA(-)血球・GPI(-)血球との関係を検討する予定である。2020年4月現在、登録症例数が4症例と伸び悩んでいるため、進捗が遅れている。
1. 上記の臨床試験「サイモグロブリン+シクロスポリン+エルトロンボパグ(EPAG)による初回治療の有用性の検討」の登録症例を対象として、治療反応性とHLA(-)血球・GPI(-)血球との関係を明らかにすることにより、これらの異常形質血球が存在することで、野生型を含む患者の造血幹細胞(HSC)が、TPO-RAの刺激を受けて増殖しやすい性質を持っているのではないか、という仮説を引き続き検証する。2. 造血幹細胞に対する免疫学的攻撃に曝されているHSCは、HLA(-)やGPI(-)等の表面形質の変化とは無関係にEPAGに反応して造血を支持しやすくなるメカニズムを明らかにするため、寛解期の患者末梢血HSCを対象として網羅的なRNAシーケンシングを行い、TPO-Rシグナリングに関与するJAK-STAT系、Ras-MAPK系、PI3K-AKT系などの遺伝子発現を健常者の末梢血HSCと比較する。
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