研究実績の概要 |
細胞極性の消失は多くのがん組織で認められており、がん細胞の悪性度を判断するための1つの指標となっている。細胞極性因子Partitioning defective 3 (Par3)は、乳がん細胞で発現が低下しており、予後不良と関連している。近年、繋留因子exocyst複合体がPar3と結合することで乳腺細胞の細胞生存を制御している事が報告された。しかし、その詳細な分子機構は不明な点が多く、さらなる解析が求められている。 本研究は、ヒト正常乳腺上皮細胞株MCF10Aを用いて、細胞極性形成過程におけるexocystの局在解析および機能解析を行い、Par3-exosyt複合体の下流で動く因子およびそれらのシグナル経路を同定する事を目的としている。これまでに、exocystの細胞内局在解析および機能解析のために、CRISPR/Cas9システムによるexocyst-GFPノックイン細胞株の樹立を進めてきた。exocystは8つのサブユニットから成る複合体であるが、Sec3, Sec5, Sec6, Sec8, Exo70の5つのサブユニットの可視化はすでに完了している。残りのサブユニットSec10, Sec15, Exo84は、N末端またはC末端へのGFP融合後に、細胞増殖不全が起こる事がわかっていた。そこで、GFPよりもサイズの小さなペプチドタグV5, HAなどの標識に変更する事により、GFPとの融合によって予想される立体障害によるexocyst複合体の機能不全を回避することを計画した。その結果、Sec10-HA, Sec15-HA, Sec15-V5, Exo84-HAなどのノックイン細胞株樹立に成功した。現在、これらの細胞株を用いて細胞極性形成過程におけるexocystの局在解析および機能解析を進めている。
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