上皮細胞における細胞極性は、密接接合・接着接合を境に管腔側と基底膜側に分離され、細胞の形や機能が細胞内で偏りを持つことである。この不均一性は、秩序だった細胞機能を維持するために必要である。多くのがん組織では細胞極性の消失が認められており、がん細胞の悪性度を見極める上で1つの指標となっている。細胞極性因子Partitioning defective 3 (Par3)は乳がん細胞で発現が低下しており、予後不良と関連する。近年、Par3は繋留因子exocyst複合体との結合を介して乳腺細胞の生存を制御することが報告されたが、その詳細な分子機構は不明な点が多い。本研究では、3次元培養による細胞極性形成過程を観察することができるヒト乳腺上皮細胞株MCF10Aを用いて、ゲノム編集により内在性exocystサブユニットの可視化を行った。さらに、樹立したゲノム編集済み細胞株を用いることで、腺房様構造形成過程におけるexocystサブユニットの細胞内動態の解析を行った。また、近年新たに開発されたケミカルノックダウンシステムとゲノム編集を組み合わせることで、従来では難しかった3次元培養下における時期特異的な遺伝子発現抑制が高効率で行えるようになった。今後は、この手法を使い、細胞極性形成前後におけるexocystの機能解析を進める。
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