研究課題/領域番号 |
18K08657
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
長田 太郎 順天堂大学, 医学部, 教授 (00338336)
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研究分担者 |
服部 浩一 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任先任准教授 (10360116)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小腸大腸肛門外科学 / 下部消化管学 / 細胞・組織、生体分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、難治性の慢性炎症性疾患である炎症性腸疾患(IBD)における、特に腸管臓器特異的血管内皮の性状とその機能、内皮由来のアンジオクライン分子の動態解析、また分子シグナルを介した造血系、間葉系等の各種系統細胞、炎症性サイトカインとの相互作用を包括したIBD病態、病勢の制御機構の解明を主な目的としている。今年度の研究で、研究分担者らは、疾患モデルマウスの実験を通じて、化学療法剤、サイクロホスファマイドの少量持続投与により、内皮由来のアンジオクライン因子IL-6、TGF-β、TNF-αの動脈系血管での発現や産生、そして炎症性サイトカインであるIFN-γ、IL-1、IL-10の産生が阻害されることにより、造血幹細胞動態の制御を通じ、末梢病変組織中への炎症性細胞動員の抑制、一部の慢性炎症性疾患の病態を有意に改善することを報告した。研究成果は、本研究目的である骨髄中の臓器特異的血管内皮が構成するアンジオクラインシステムによる造血幹細胞動態の制御仮説と合致するものであり、また炎症性サイトカイン産生との相互作用を通じた、アンジオクライン因子を標的とする新しい抗炎症療法の可能性を示唆したものである。 また、IBDにはその予後を著しく悪化する発癌の問題がある。代表者らは、大腸癌、骨髄腫瘍、炎症性発癌モデルの精査を進めているが、血管内皮から分泌されるアンジオクライン分子であるepidermal growth factor like-domain 7(Egfl7)が、同様にアンジオクライン分子に属するインテグリンβ3を受容体として、転写因子Kruppel-like factor2の活性化を通じ、造血幹細胞や腫瘍細胞の増殖、また炎症性細胞分化にも関与していることを明らかにした。 以上の研究成果は、臓器特異的血管内皮によるアンジオクライン分子を通じたIBD病態制御機構の存在を示唆するものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況として、研究代表者らは、IBDのみならず、IBD原性発癌モデルを作製、確立し、さらに臓器特異的血管内皮のアンジオクライン分子の発現増強、産生が、炎症性サイトカインとの相互作用を通じて、慢性炎症性病態形成に関与していること、そして薬剤によるアンジオクライン分子活性阻害によりIBDを含む一部の慢性炎症性疾患の病勢、重症度を改善することを提示した。このことは、内皮ストレスによるアンジオクライン分子の発現、産生が、IBD病態形成の端緒、あるいは制御因子として機能していることを示唆していると考えている。 また代表者らは、これら疾患動物モデルの解析に加え、ヒト検体でも、炎症性疾患の病勢、重症度とアンジオクライン分子に属す、一部のプロテアーゼの血中の活性レベル、あるいは採取血管内皮細胞からの分泌動態との関連性を示すことができた。これらの研究成果は、IBD病態制御機構の全容解明、そしてアンジオクライン分子を標的としたIBDに対する新しい診断法、治療法開発の基盤形成といった研究計画の遂行上においても、重要な研究成果を得ている。 加えて、今年度は、造血器官の臓器組織特異的血管内皮から産生されるアンジオクライン因子が、これらの受容体、low density lipoprotein related protein-1やインテグリンβ3等を通じて、造血幹細胞を含む造血系細胞に作用し、これらの受容体の下流に存在するシグナル伝達経路、転写因子Kruppel-like factor2やチロシンキナーゼErk-1/Erk-2、マトリックスメタロプロテアーゼ群の活性化し、臓器特異的血管内皮によって築かれる生体恒常性の維持機構であるアンジオクラインシステムの存在を確認し、IBDの分子基盤となる炎症制御機構の一端を解明し、論文報告が出来たことは、研究計画全体において大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究成果の考察から腸管臓器特異的血管内皮に認められるアンジオクライン因子の発現異常、血管内皮障害が炎症性腸疾患(IBD)病態形成の起点となっているとの仮説に基づき、疾患モデルの作製、そしてIBD患者の臨床検体の集積の両面から、未病、起点、遷延化、不可逆化へと連続的にIBDが進行する過程における末梢血中のアンジオクライン因子、そして病変中の組織環境-血管ニッチの細胞・組織構成、細胞性状、各種細胞の包括的遺伝子発現等のモニタリングを施行し、これらを定量的・定性的な情報として収集・統合する。具体的には、IBDのモデルマウスを作製し、各種臓器・組織を経時的に採取し、フローサイトメーターによる細胞構成、さらにソーティングによる腸管組織特異的血管内皮細胞の性状、機能、他系統細胞との相互作用、細胞の遺伝子発現解析、アンジオクライン因子による免疫特殊染色、in situ hybridizationによるニッチ構成を解析する。各種アンジオクライン因子遺伝子欠損マウス、改変マウスと対照群に、疾患モデルマウスを作製し、アンジオクライン因子阻害剤投与、抗菌薬および糞便移植群を作製する。これらの各種臓器・組織を経時的に採取し、その細胞構成、腸管特異的血管内皮細胞の性状、機能、遺伝子発現解析、ニッチ構成を解明する。またIBD患者からの、臨床検体採取を継続し、重症度、合併症、各種薬剤投与、外科手術や糞便移植を含む治療歴等の患者情報を記録する。患者検体については、血中、便中のアンジオクライン因子測定の他、末梢血、腸管組織中のフローサイトメーターによる細胞構成、腸管組織特異的血管内皮細胞の性状、機能、遺伝子解析に加え、ニッチ構成の解明を進め、動物実験との照合とを通じ、病態を制御する新しい分子標的を探索する。最終的に、全体をトランスレーショナルリサーチの手法で統合し、研究発表、論文作製を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、IBD患者からの臨床検体を用いたIBDが併発する凝固・線溶系の異常、腸管病変の形成、さらにはアンジオクライン分子を標的とした新しい炎症抑制、補助療法の開発を目指しており、検体についてはある程度集積した段階で、まとめて測定する形になるため、前年度より検体集積が遅れた分も持ち越しと、2020年初頭からコロナウィルスの影響を受け、臨床、基礎両部門の活動が滞った分、次年度での測定量が増えた。しかしながら、今年度より全学的な研究連携体制も整ったこともあり、今後は、検体集積の増加が見込まれることもあり、次年度使用額が生じている。
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