本研究課題では集中治療室(ICU)で人工呼吸療法を受けているため発声ができない患者とのコミュニケーションを促進すること,重症患者の苦痛,精神ストレスの客観的な評価方法の確立と,緩和を目的として,1)喉頭摘出患者に使用する人工喉頭を用いることで,人工呼吸器を装着している患者と代用音声によりコミュニケーションができるかどうかを検討すること, 2)集中治療室で治療を受ける患者の苦痛や精神ストレス,不眠と唾液ストレスバイオマーカーとの関連性を調査した。 1)の課題については,人工呼吸を装着し体力が十分回復していない状況であっても,僅かな発声トレーニングで効果的に人工喉頭が使用できるように,日本語の発声し易い音節や単語を詳細に調査し研究報告を行なった。また人工喉頭を使用するためのトレーニングが代用音声の明瞭度に与える影響を調査し研究報告を行なった。特に経口気管挿管患者よりも気管切開患者において人工喉頭を用いたコミュニケーションは有用であり,その音声明瞭度,患者満足度を評価し報告した。また,人工喉頭単独ではなく,カフ上発声法と組み合わせることにより,より良い音声明瞭度を得ることが判明し,症例を蓄積しその有用性を報告した。さらに人工呼吸器患者とのコミュニケーションアルゴリズムを作成し,患者ごとに人工喉頭の使用を含めて,最適なコミュニケーション方法を選択できるよう調査した。 2)について,まず重症患者が経験する苦痛,ストレスとされている口渇につき観察研究を行なった。結果,長時間にわたり強い口渇を認める患者はICU滞在中のせん妄発症と関連があることを明らかにした。さらに人工呼吸や酸素投与による口腔内乾燥と口渇との関連性について報告を行なった。さらに不眠と唾液ストレスバイオマーカーとの関連を調査し,客観的ストレスマーカーとして有用であるかについてデータ取得し,最終の解析を継続している。
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