研究実績の概要 |
本研究は,膝OAにおける滑膜に発現するプロテオグリカンであるパールカンの機能の詳細および軟骨下骨や骨棘病変との関連を分子レベルで解明し, 膝OAの滑膜炎を制御しうる分子を探索することを目的とする. 膝OAマウスモデルを用いて,下記実験を計画した. ①パールカンの発現の有無による滑膜の炎症性メディエーターの発現の違いの検出.②炎症性メディエーターと軟骨下骨及び骨棘の変化を評価. ③軟骨下骨及び骨棘の変化に寄与する炎症性メディエーターとパールカンの機能解析.④標的分子による膝OAの治療効果の検討. 2018年度は,膝OAモデルを作成したマウスにおいて,滑膜パールカンが欠損すると組織学的滑膜炎がコントロールに比べ強く,TNFα, TGFβ, CCL21, VEGF,CD31などの炎症性メディエーターも上昇することを示した. 2019年度は以下の結果を得た. 膝OAモデルを作成したマウス1週において, マクロファージのマーカーであるCD68およびCCR3が滑膜欠損マウスの滑膜において発現が上昇していた.また,関節近傍の骨棘様の滑膜および軟骨組織の凝集は小さく, 分化は抑制されていた. 次に, 軟骨形成に係わるTGFβに注目し, 以下の実験を行った. 滑膜パールカン欠損マウスおよびコントロールマウスより採取した滑膜をTGFβで刺激し, 下流シグナルをウエスタンブロットで解析したところ, 滑膜パールカン欠損マウスの滑膜において, p-Smad2/3の発現が低下しており, 滑膜パールカンが欠損することによるTGFβの下流シグナルが抑制されていた. 膝OAモデルによる滑膜パールカン欠損マウス滑膜炎はTGFβシグナルが入らないことによるネガティブフィードバックの可能性が考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
膝OAにおける滑膜に発現するプロテオグリカンであるパールカンの機能の詳細および軟骨下骨および骨棘病変との関連を分子レベルで解明し, 膝OAの滑膜炎をはじめとする病態を制御しうる分子を探索することを目的とし,昨年の結果にもとづき,TGFβとそれを産生しうるマクロファージを中心に実験を行う. 滑膜パールカン欠損マウスを用いて,マクロファージと滑膜炎, 軟骨下骨, 骨棘の病態の解析を行う. さらには,マクロファージや炎症性メディエーター制御による膝OAの治療効果の検討を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の実験室の移動およびマウスの移動に伴い, 使用可能マウスが生まれなかったことにより実験の遅延が起こった. そのため, 2019年度も当初の実験に滞りが生じて一部予算の次年度繰り越しとなった. 現在実験は順調に進んでいる. また, 2019年後半の予定学会が中止になり予算の繰り越しも生じた. 本年度は, 一部本年度に繰り越されているマウスに対する治療効果実験により繰り越し予算を使用予定である. 2020年度予算は, 実験の遂行および業績のまとめのために使用する.
|