研究実績の概要 |
歯周組織はセメント質、歯根膜、歯槽骨からなる機能的ユニットとして、発生から萌出後に至るまで一定の幅を維持するよう保たれているが、この恒常性が破綻するとさまざまな疾患が引き起こされる。しかしこの歯周組織の恒常性がどのようにして維持されているのかはほとんど理解されていない。近年我々は、実験的に歯の萌出時期あるいは萌出後で歯根膜内のマラッセの上皮遺(ERM)を消失させると、歯根膜幅の減少や萎縮が生じることを見いだした。従って、ERMが歯周組織の恒常性維持に対して必須の役割を担っていると考えられるが、その分子メカニズムは明らかではない。本研究では我々が確立した独自の実験系を用いて、ERMの形成メカニズム、分子生物学的特性を明らかにするととに、歯周組織恒常性維持におけるERMの役割と分子制御メカニズムを明らかにする。そしてそのメカニズムを応用して、予知性の高い歯周病や骨性癒着の予防・治療法の開発、歯周組織再生にむけた新しいコンセプトを提案したいと考える。 本年度は,Hertwig上皮鞘(HERS),ERMのin vivoにおける組織形成能を評価するために,我々の樹立したHERS細胞株を歯小嚢細胞株と共に免疫不全マウスの皮下に移植,その組織解析を行った。その結果,HERS細胞と歯小嚢細胞を同時に移植した群は,HERS,歯小嚢細胞を単独に移植した群に比べ,骨の形成が有意に多く見られた。さらに興味深いことに,移植したHERS細胞の周囲には歯根膜組織様の結合組織が存在する一方,骨組織はHERS細胞から距離をおいて作られていた。この組織は歯根ー歯周組織の構造とよく似ており,HERS細胞が正常な歯周組織を形成するのに重要な役割を担っていることを強く示唆していた。 現在,研究機関全体を通して得たデータをまとめ,論文作成を行なっている。
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