研究課題/領域番号 |
18K09673
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小山 重人 東北大学, 大学病院, 准教授 (10225089)
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研究分担者 |
佐々木 啓一 東北大学, 歯学研究科, 教授 (30178644)
古川 英光 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (50282827)
金高 弘恭 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (50292222)
川上 勝 山形大学, 有機材料システム研究推進本部, 准教授 (70452117)
佐藤 奈央子 東北大学, 大学病院, 助教 (80510015)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔・鼻咽腔印象採得方法 / 形状記憶ゲル / バルーン技術 / 3次元ゲルプリンター |
研究実績の概要 |
顎顔面補綴装置を複雑な欠損形態に適合させることは難しい。形状記憶ゲルは2種類のモノマー;ステアリル酸アクリレート(SA)とアクリル酸ドデシル(LA)とN、N-ジメチルアクリルアミドより合成され、加熱するとヤング率が急激に低下し軟化し変形可能になるが、低温では変形状態が保持できる。再加熱すると形状回復する(形状記憶・可逆的)特性を持つ。今回形状記憶ゲル材料とバルーン技術を応用した3次元口腔・鼻咽腔印象採得方法を開発するために、形状記憶ゲル膜の組成を決定し、この時の強度を測定した。これより必要な強度を有する形状記憶ゲル膜の試作に成功し、形態記録に適したゲル膜の組成と物性を検討することができた。また、モノマー配合においてLAの比率の増加により形状回復性が向上した。重合開始剤CQを多くすると、重合時間は短縮されるが、色調は淡黄色を示し、形状回復性は低下した。形状記憶ゲルが有する可逆的な形状回復性は、加熱し軟化状態にすることで顎顔面欠損部印象への利用や、自発的適合材料など、顎顔面補綴治療への応用の可能性が示唆された。3次元ゲルプリンターで形状記憶ゲルをバルーン状に造形する方法について検討した結果、同じ形状のものを、Z軸を変更しながら3層構造にし、中間である2層目に空洞となるようPETフィルムなどでレーザー光を遮断することで空洞を形成することによりバルーン状に造形することができた。今後本研究を継続しこの開発目的が達成された場合、治療時間が短縮、治療が簡便化され、患者の痛みや身体的負担が軽減され、医療の安全性が向上する。また、形状記憶ゲルの操作条件を調節することで、骨支持のない軟組織の形態記録が可能となる現行の印象採得に代わる新しい方法となりうることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
口腔・鼻咽腔印象採得方法への適用を目指した形状記憶ゲルの組成および物性を評価した。1.重合開始剤カンファーキノン(CQ)とモノマー配合比率を変化させた。1)SA:LA配合比率;①10:0②8:2③5:5④2:8の試験片(WHD5×5×1㎜)を作製し、各群のCQを0.25・0.5・5.0に比率を変化し、 重合時間および色調を検討した。2)実用範囲の特性を示した試験片のうち、②8:2(CQ 0.25・0.5・5.0)③5:5(CQ 0.5)④2:8(CQ 0.5)の5種類について形状回復性を検討した。試験片を長さ50mmダンベル形状(K6251-8)に成形後、60℃温水中で軟化し全長100mmまで引張り、室温水中で硬化した後、再度60℃温水中にて形状回復後、全長を計測した。その結果・LAが多い場合には、伸びが良く、最大点が低いこと、・CQが多い場合には、伸びが悪く、最大点が高いこと、・裏装材(ソフト)に近似している組成は、SA5-LA40-CQ5であること、・印象材(レギュラー)の変位量に近似している組成は、SA12.5-LA6.25-CQ5であること、また、・重合開始剤CQを多くすると、重合時間は短縮されるが、色調は淡黄色を示し、形状回復性は低下することなどの知見を得た。 2.それぞれの物性を引張試験にて検討したところ、・印象材・裏装材ともに最大点が3~5Nであり、全ゲルの平均最大点の1/4であること、が判明した。 3.バルーン状3次元プリンティング方法としてガラス版を使用した袋状の造形について検討を行い、同じ形状のものを、Z軸を変更しながら3層構造にし、中間である2層目に空洞となるようPETフィルムなどでレーザー光を遮断することで空洞を形成しバルーン状にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進するための重要な検討課題として、形状記憶ゲルと3次元プリンティング方法を用いたバルーン製作方法の確立となる。形状記憶ゲル形成方法として浴槽に沈めながら造形を行う方法と、ガラス版に枠を付け少量のゲルを流し板状に造形を行う方法がある。特徴として前者は造形時間が掛かりまたバルーン状にするためには造形物の大きさの制限があり、浴槽用に変換を行うことが複雑であるのに対し後者は短時間で製作が可能である。今後STLデータのやり取りを行いより良い形状を模索していく必要がある。バルーン状3Dプリンティングについて、通常レーザー光が下層に突き抜けないようUV吸収剤を混合しているが、この場合突き抜けるような構造をとることで造形回数を少なくできる可能性がある。しかしながら遮蔽物が中間に維持し続けられる工夫が必要である。また、バルーン状形状記憶ゲル形成法の別案として風船等の外面に状記憶ゲルをコーティングし硬化させ製作する方法や、風船内部に状記憶ゲルを注入し窒素で膨らませ硬化させる方法も考えられるので、早急に適切な 製作方法を確立していく予定である。また引き続き、形態記録に最適な形状記憶ゲル組成の検討を行い、特に1)軟組織の形態記録に適した表層と内層バルーンゲル膜の弾性率および膨張率の検討、2)瞬時に拡張・収縮するための適切なバルーン形態、厚みおよび表層と内層ゲルの比率の検討、3)適切なスイッチング温度の検討を行う必要であると考えられた。さらに、形状記憶システム構築後、ヒトの顎顔面欠損形態を模した実験モデルにて形状記録評価を行い、臨床応用に 向けた研究結果の検証を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和1年度に、形態記録に最適な形状記憶ゲル組成と物性を検討して学術大会において発表する予定であったが、形状記憶ゲル膜の弾性率および膨張率の検討が不十分であったため、計画を変更し、さらなる組成と物性の解析を行うこととしたため、次年度使用額が生じた。このため、バルーン状3Dプリンティング方法を確立と学会発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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