研究課題/領域番号 |
18K09992
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
川崎 唯史 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 流動研究員 (90814731)
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研究分担者 |
松井 健志 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 部長 (60431764)
大北 全俊 東北大学, 医学系研究科, 講師 (70437325)
佐藤 靜 大阪樟蔭女子大学, 学芸学部, 准教授 (80758574)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脆弱性 / 医学研究 / 研究倫理 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、医学研究の倫理学領域を中心に、立場の弱い者および脆弱性に関する先行研究の収集を行い、2000年以降の文献をおおむね入手し、次年度に投稿予定の総説論文に向けて準備を開始した。 また研究代表者は、現象学的哲学に関する国際会議に招待された機会に、脆弱性に関する哲学的な先行研究の批判的検討を行い、M.メルロ=ポンティの現象学的哲学の中には、普遍的な脆弱性に関する洞察だけでなく、普遍的な脆弱性と特殊な脆弱性を統合しうる視点をも見出すことができることを明らかにした。さらに、生命倫理学・研究倫理学においてしばしば理論的基礎として参照されるE.レヴィナスの脆弱性概念について検討し、著作間における定義の異同、「女性的なもの」の概念との内在的な連関、保護を命じる規範的概念であるかどうかの疑わしさといった点を指摘し、従来の適用方法の難点を示した。これらの作業をもって、脆弱性概念に関する哲学的背景の検討の一部を終えることができた。また共催イベントとして、脆弱性概念の哲学的背景として重要なJ.バトラーに関する藤高和輝氏の著作の合評会を開催した。 研究班全体としては、2018年9月3日及び2019年2月18日に研究会を開催し、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に「社会的に弱い立場にある者」という文言が導入された経緯及び現在求められている配慮について検討するとともに、国際的な倫理指針との比較等を通してどのような配慮が不足しているかを議論した。また、医学研究の倫理学における脆弱性に関する先行研究のレビューも行い、今後どの論点を深めていくべきかを議論し、次年度以降の論文作成方針を立てた。その他、研究分担者が取り組んでいる個別の問題(日本におけるHPVワクチンをめぐる状況及び新潟水俣病の妊娠規制)について、脆弱性の観点から検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全般的な文献収集はおおむね終了した。また、脆弱性概念の理論的背景についても一部ではあるが検討し、また他の部分についても見通しを立てられた。脆弱性概念に関してどの論点を考察すべきかを議論を通じて確定し、来年度以降の作業の内容と順序を明確にした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、先行研究全体に関する総説論文を作成する。次に、医学研究の倫理学の歴史及び固有の問題設定を考慮せずに一般的な脆弱性理論を適用するアプローチを批判的に検討する。その上で、研究参加者の脆弱性に基づいて命じられるべき倫理的配慮の範囲について、過度に広く設定するアプローチを批判的に検討し、研究計画の側に問題点がある場合にそれを適切に把握して研究参加者の側に転嫁しないようなアプローチを具体化する。 また、弱い立場にある者を研究に参加させることが奨励されるようになった歴史的経緯について、HIV/AIDS当事者の運動からの影響も含めて検討する。 理論的背景に関しては、英語圏で主要な参照先となっているR.グディン及びE.キテイについて考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は1年目であり、主たる作業であった文献収集のために出張が必要なかったこと、科研研究会を研究代表者(川﨑)と分担者1名(松井)の所属機関で開催したために研究会のための旅費が少額となったこと、また多くの文献が雑誌論文であって無料で収集できたことが、次年度使用額の生じた理由である。 次年度は、次年度使用額分を差し引いて当初の計画通りの金額になるよう設定している。次年度も研究発表を行う予定であるが、最終年度である次々年度により多数の発表を予定しており、旅費が必要になると予想されるからである。
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