遺伝性疾患である多発性嚢胞腎症(PKD)は、常染色体優性(AD)PKDと常染色体劣性(AR)PKDに分けられる。ADPKDの責任遺伝子として、PKD1、PKD2が同定されている。ADPKDのモデル動物作成のために、これらの遺伝子の色々な箇所をノックアウト、もしくはコンディショナルノックアウトしたマウスが作成された。しかしながら、これらのマウスのほとんどはヘテロでは病態を示さず、ホモでは胎生致死、もしくは病態進行が極端に早かった。近年、ヒトPKD患者の責任遺伝子データベースを参考にして、Pkd1の3277番目のアミノ酸であるアルギニン(R)をシステイン(C)に変換させたPkd1-RCマウスが開発された。このマウスは、約1年をかけて嚢胞を形成するため、病態進行速度は人に近い。PKD1、PKD2の遺伝子産物であるPC1、PC2は複合体を形成する。この複合体の立体構造は解析されており、3277番目のRの影響およびRと相互作用するアミノ酸を推測することが出来る。PC1とPC2の複合体の立体構造とヒトPKD患者の責任遺伝子データベースを参考にして、Pkd1の3277番目のRC変換以外に3種類のアミノ酸を変換させたノックインマウスを作成した。 新たに作成した3種類のPkd1ノックインのヘテロマウスは、腎臓の髄質もしくは皮質に大きな管の拡張が見られた。しかしながら、全ての個体に見られるわけではなく、病態にバラツキが見られた。また、生後2週齢ぐらいで死ぬ個体も見られた。CRISPAR-Cas9システムを用いて作成したノックインマウスは、C57BL/6と交配して繁殖する。C57BL/6は近交系とはいえF1、F2世代では遺伝背景にバラツキがあり、それが病態に影響を与えているのではないかと考える。一般的に遺伝背景が安定すると言われている5世代まで繁殖を行い、再度、病態解析を行う。
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