研究課題/領域番号 |
18K11153
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
堀山 貴史 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60314530)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルゴリズム / 列挙アルゴリズム / 計算幾何学 / 展開図 / 多面体 / 二分決定グラフ |
研究実績の概要 |
列挙アルゴリズムは、与えられた制約条件を満たす解を、漏れなく、重複なく、すべて求めるための技術である。本研究課題では、幾何図形を扱う様々な列挙問題において、グラフの部分構造を列挙する問題として研究対象をモデル化し、さらに、列挙した部分構造の間に同型性を定義することで、同型なものを排して非同型な (つまり、本質的に異なる) ものを列挙するアルゴリズム設計の基盤を構築することを目的とする。同型性の除去は、計算量理論の観点からは計算困難な問題であるが、分野横断的に現れる重要な課題である。 本研究では、さまざまな分野で現れる同型性の除去の必要な問題に対し、それらへの個別の対応を考えるのではなく、それらに共通して必要となる要素を抽出する。(A) 同型性の除去のためのアルゴリズム設計の基盤を構築、(B) 同型性の除去手法の各分野への応用、この2つのアプローチを連携させ、基礎から応用へとつなげている。(A) では、列挙した部分構造の間に定義した同型性に基づき、それぞれの同値類から代表元を定め、個々の部分構造が代表元であるかを判定する必要がある。従来法では、この処理に膨大な計算時間や記憶容量を要している。そこで、本研究では、扱う問題における同型の定義に立ち返り、同型を定義するもととなる個々の置換について、同型性の除去を行いつつ ZDD (Zero-Suppressed Binary Decision Disgrams; 零抑制型二分決定グラフ) を top-down に構築する手法を提案した。この手法は、同型性の除去が必要な問題に広く適用可能であるため、(B) の観点から、多面体や多胞体の展開図について同型なものを取り除きつつ列挙する問題に適用した。従来からの手法を組み合わせた場合に比べ、300倍の高速化と3,000倍の省メモリ化を達成するなど、計算機実験は本手法の有効性を如実に示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で提案した、同型を定義するもととなる個々の置換について、同型性の除去を行いつつ ZDD (Zero-Suppressed Binary Decision Disgrams; 零抑制型二分決定グラフ) を top-down に構築する手法は、同型性の除去を必要とする問題に広く一般に適用可能である。3次元の多面体や d 次元の多胞体の展開図を列挙する問題においては、従来法では、apply 演算を組み合わせて全域木を列挙し、列挙結果の ZDD から全域木を1つずつ取り出して、それが代表元 (同値類の中で辞書順で最小のもの) であるかを逐次的に判定していた。第1ステップの全域木の列挙については、解となる全域木すべての集合を表す ZDD を top-down に構築する枠組みとして、フロンティア法が提案されている。本研究の提案手法は、上記の第2ステップの同型性の除去を行う ZDD をフロンティア法の要領で構築するものであり、全域木すべての中から同時並行的に (つまり、1つずつ逐次ではなく) 同型性の除去を行う。これにより、従来法をもとに、第1ステップをフロンティア法で実行した場合に比べて、提案手法は 300倍の高速化と 3,000倍の省メモリ化を達成している。具体的には、たとえば、5次元超立方体の展開図を求める問題において、従来法の組み合わせによる同型性の除去が 1166.52秒の計算時間を必要としたのに対し、提案手法では 3.96秒で完了している。また、従来法が 36 GB のメモリ使用量だったのに対し、提案手法は 10 MB である。このように、計算機実験は本手法の有効性を如実に示している。以上のように、概要に示した (A) と (B) の2つのアプローチが有機的に結びつき、良好な結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、各分野で現れる同型性の除去が必要な問題に対して個別に対応を考えるのではなく、それらに共通して必要となる要素を抽出し、同型性をうまく扱うためのアルゴリズム設計の基盤を構築する。こうして同型性をうまく扱えるようになれば、この手法を各分野の個々の問題へと応用し、その応用過程で得られた知見をアルゴリズム設計の基盤構築に還元する。このサイクルを繰り返すことで、アルゴリズム設計技法を核とした分野横断的な連携を図る。 上記の観点を基本方針とし、まずは、本研究で提案した同型性の除去手法を、さまざまな分野の問題に適用する。たとえば、多面体や多胞体の展開図における同型性の除去は、これまでに良好な結果を得ているが、適用範囲のさらなる拡大を図る。また、避難所の割当ての問題や、選挙区の区割りの問題は、グラフの分割問題としてとらえることができるが、これもまた、同型性の除去が重要な役割を果たす問題であることが分かってきた。このため、このグラフの分割問題への適用を検討する。さらに、アルゴリズム基盤の構築と応用のサイクルを繰り返す観点からは、同型性の除去手法の見直しを図る。たとえば、現在は同型性を定義する置換ごとに ZDD の構築を考えているが、この点の効率化を図ることなどが挙げられる。
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