研究課題/領域番号 |
18K11648
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
逆井 良 金沢医科大学, 医学部, 講師 (10549950)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | DNA二本鎖切断 / 相同組換え / R-loop |
研究実績の概要 |
DNA二本鎖切断(DSB)の修復経路は大きく、相同組換え経路(HR)と非相同末端連結経路(NHEJ)の2つが知られる。両者の選択機構は明らかになっていないが、DNA切断端での一本鎖DNAが露出すること(DNA end resection)が、HR経路へ進む最初の段階と考えられている。 しかし、resectionが起こるきっかけについては不明である。研究代表者らは、転写およびDNA-RNA hybrid構造をもつR-loopがHRに重要であることを見出しており、R-loopがresectionを促進している可能性が考えられる。本研究では、DSB周辺のR-loopもしくは転写活性化状態がresectionのきっかけになりうるかどうか、明らかにすることを目的としている。DSB修復経路の選択機構は古くからの研究命題であるがいまだ明確な答えは出ていない。最近のゲノム編集技術や、DNA障害性の抗癌剤の作用機序等を考える上でも、DSB修復経路の制御機構理解は重要となる。 転写阻害剤を用いた検証の結果、転写阻害がDNA複製効率自体に影響する可能性が示唆され、複製ストレスによってHR経路を誘導する実験は転写依存性の検討には不適切であることが考えられた。そこで、DNA損傷をDSBへと絞って解析を進めており、Rad51以外の因子の集積も転写依存的であることを示唆するデータを得ている。現在は、転写依存性がより強く出る条件の検討を進めている。また、DNA損傷応答因子の集積をより明確に検討するため、laser microdissectionを用いた核内局所へのDSB誘導系の確立をおこなった。進めていたRNaseH1の発現誘導系の構築は、RNaseH1を内在性の10倍程度まで誘導できているが、それによるHRへの影響は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
構築を進めていたRNaseH1の発現誘導系は、高効率での発現誘導はできるが、HRへの影響は見られなかった。報告によればHRへの関与が見られるはずであるため、さらなる検討が必要と考えられる。さらに高い発現レベルが必要である可能性もあり、誘導方法を変更することで改善できる可能性はある。DSB修復経路への転写依存性の検証において、BRCA1機能不全で且つ53BP1機能不全の細胞では、HRへの転写依存性がより高い可能性を示唆するデータが得られてきている。BRCA1変異がんではPARP阻害剤が奏功するとされているが、一部のBRCA1変異がんでは53BP1の発現も下がっており、HRが回復してしまうためにPARP阻害剤を含む抗がん剤が効かなくなることが知られている。このような細胞では、BRCA1によるresectionの制御がなくなっていると考えられるが、転写依存性がより高いのであれば、BRCA1欠損下でのresectionの開始に、転写が寄与している可能性があると考えられる。また、resection因子のDSBへの集積を解析することが難しく、転写がresectionのきっかけになるかという命題に対する直接的な検討ができていない。そこで、ライカのLMD7000 laser microdissectionを用いて、核内の局所にDSBを誘導する系の確立をおこなった。本来は、組織から特定の部位や細胞を切り取る機器であるが、高倍率で組織を観察し、精細なレーザー照射ができることから、核内の局所にレーザーを照射することが可能である。実際に出力調整等の条件検討を行うことで、照射部位にDNA損傷応答因子が集積することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
laser microdissectionによるDSB局所誘導系を構築したので、HR因子やresection因子のDSBへの集積を解析できるようになった。この系を用いて、転写依存性の確認や、クロマチン構造制御因子や転写促進因子等のHR因子集積への影響を解析する。また、この系によりR-loopの形成も特異的抗体を用いることで検出が可能と考えられる。さらに、すでに樹立している、Dox誘導性プロモーターの下流に制限酵素I-SceI認識配列を組み込んだGFPのカセットをゲノム中に挿入した細胞を使って、転写ON/OFFによる、DSB部位へ集積する因子の違いに関しても、ChIP assay等で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、遂行が難しい実験も多く、実験系の構築の割合が大きかった。そのため、研究全体の進捗としては遅れており、研究費の使用額も小さくなったため、次年度使用額が発生している。構築した新たな実験系を用いて、今後の研究の推進方策にしたがって研究を進め、研究費を使用していく予定である。
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