研究課題/領域番号 |
18K11799
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
国宗 浩三 関西学院大学, 国際学部, 教授 (50450490)
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研究分担者 |
久保 公二 学習院大学, 国際社会科学部, 教授 (00450528)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミャンマー / 中国元の国際化 / 裁定取引 / インフォーマル送金 |
研究実績の概要 |
中国と国境を接するミャンマーでは、国境貿易や、中国からの非公式な投資が、中国元で決済されている。ミャンマー企業が、中国国内に銀行口座を開き、中国企業との資金の受け払いを中国元で行っている。これは中国当局が主導する中国元クロスボーダー決済とは異なり、中国の規制上は国内取引に相当する非公式な取引であり、これをミャンマーにおける草の根レベルの「中国元の国際化」と呼ぶ。ミャンマー企業のあいだでこのオフショア中国元と国内のミャンマーチャットを交換する市場が形成され、その規模が同国の公式な外国為替市場と比べても見過ごせない水準にあると推測される。 本研究は、この「中国元の国際化」がミャンマーの公式な米ドル相場に与える影響を計量分析と質的分析で明らかにする。オフショア中国元の相場と国内のドル相場のあいだに裁定が働いているのか、たとえば国内でドル高チャット安が進んだときに、オフショア中国元をドルに交換して国内のドル相場に還流させる仕組みがあるのかが、本研究の最大の関心である。 本研究の計量分析では、過去10年分の日次為替レートデータを用いて、ミャンマーにおけるオフショア中国元と国内の米ドルの為替相場の連動性を明らかにした。流動性の低い為替相場では売値と買値のスプレッドがショックに応じて変動する特性を利用して、両相場間のショックの波及パターンを示した。この結果は、二つの相場のあいだで裁定が働いていることと整合的である。 ただし、これらの二つの相場のあいだで裁定が働いていることを示すには、具体的にどのような経済主体によって裁定行動がとられているのかを明らかにしなければならない。なぜなら、計量分析で示された相場の連動性は、裁定が働いていなくても生じる可能性があるからである。しかし、ミャンマー国内での市場関係者への聞き取り調査は、下記に述べる理由のため2020年初から捗っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ミャンマーにおけるオフショア中国元と国内のドル相場のつながりを計量分析と質的分析で明らかにする本研究で、計量分析は完了しているが、質的分析は2020年初から捗っていない。 ミャンマーのオフショア中国元相場と国内のドル相場のあいだのショックの波及についての計量分析は、2019年8月のミャンマー現地調査で入手した非公式為替相場のデータ分析が完了している。当初は、為替相場の連動性を見るのに、合成された為替レート(ミャンマーチャット/中国元レート x 中国元/ドルレート)とドル相場(ミャンマーチャット/ドルレート)の差の動きを分析していたが、為替レートデータのノイズが多いことが分かった。そこで、それぞれの相場の売値と買値のスプレッドの変化を検証することで、相場間の連動性を確認し、裁定関係があることを間接的に示した。 質的分析は、ミャンマー国内で企業や両替・送金業者にインタビュー調査を行い、相場間の裁定行動の実態を解明するものである。しかし、2020年2月の新型コロナウイルス感染症拡大以降、調査のためのミャンマーへの渡航が困難になっている。さらに2021年2月にミャンマーで軍事クーデタが起こり、欧米諸国との経済関係が悪化、軍政は外貨不足の懸念から輸入規制を発動するとともに、輸出企業の外貨収入に対して指定レートでの強制両替を導入するなど、外貨の取り扱いがセンシティブな問題になっている。これらの結果、本研究で予定しているインタビュー調査が実施できなくなっている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症拡大に加えて2021年2月に起きた軍事クーデタにより、ミャンマー国内での外国為替取引についての調査が困難になったことから、外国為替相場間の裁定行動についての質的分析を、中国における非公式な国外送金についての文献調査に置き換えることとする。 当初より本研究の質的分析で取り上げている課題は、ミャンマーからみたオフショアの中国元資産をドル資産のかたちでミャンマー国内に還流させる仕組みを明らかにすることであった。この問題は、中国側からみると、中国国内の中国元資産の非公式な国外持ち出しに相当する。中国からの非公式な国外投資については、すでに既存研究の蓄積がみられるため、そうした文献のサーベイをとおして、ミャンマーにおける「中国元の国際化」の解釈を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大に加えて2021年2月に起こった軍事クーデタのために、予定していたミャンマーへの出張および委託調査が実施できず、直接経費の繰り越しが生じた。 2022年度は、中国からの非公式な国外投資の文献サーベイをもとに論文執筆を行う予定であり、論文執筆にかかる資料や事務用品等の購入と英文監修に合計で30万円程度の支出を見込む。また、中国からの非公式な国外投資に知見のある国内外の研究者との意見交換のため、国内およびアジア(香港、シンガポール等)への出張を行いたい(予算約100万円)。
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